王都の戦い

5/7
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/231ページ
「やいノロマ!」王子は精いっぱいの虚勢を張って叫びます。「お前がどんなに頑張っても、俺に追いつくことなどできない! 悔しければ、俺をひと呑みにしてみせろ!」  王子は再び馬に拍車(はくしゃ)を入れました。鐘楼(しょうろう)へと向かう道を選んで進みます。   後ろから龍が追いかけてきます。通りに面した建物を薙ぎ倒し、踏みにじり、石くれに変えながら王子の背中を狙います。  望みどおりに、牙の餌食にしてやろうか。そう考えた龍は首を伸ばして王子に噛みつこうとしましたが、そのたびに王子は向きを変え、しゃがみ、あるいは突然速度を変えて、巧みにそれを避けてみせます。  龍が手加減をやめて、そろそろ全力で走ろうかと考えたとき、視界の正面に鐘楼(しょうろう)が見えてきました。王都の中央通りに出たのです。  鐘楼(しょうろう)のてっぺんに誰かがいる。龍がそのことに気が付いたとき、王子が叫びました。 「賢者よ! 龍を連れてきたぞ!」  連れてきたとはどういう意味だろう? 龍が不審に思っていると、鐘楼(しょうろう)にいた人物の朗々(ろうろう)たる声が聞こえました。 「汝、如何(いか)なる偉大なる存在なれども、  不死不死身の存在なれど、  今は無力なる人の姿まといて、偉大なる天の主の慈悲(じひ)を乞え。  ただ心のあり様を形に成して肉の身体を得て  その姿を改めよ」  古代語の言葉です。呪文の言葉です。直感的に龍は、これこそが「龍を倒す魔法」なのだと察しました。  驚いたことに、龍の身体には急激な変化が起きたのです。  地面が目の前に近づいてきます。王子の背中が遠くなっていきます。  爪の生えた腕が、石畳(いしだたみ)を踏みしだく両足が、背中の四枚の羽が、力を失っていきます。龍は自分の身体が自分のものではなくなってしまったような、そんな不安を抱きます。  息が苦しくなってきます。走ることができません。  龍はとうとう、倒れてしまいました。
/231ページ

最初のコメントを投稿しよう!