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「なんじゃ?」
龍はありえないことが起きたことに驚いて、短い悲鳴を上げます。
龍は直接自分の意思を他人の心に響かせることができるので、音の声を出して言葉など発する必要はありません。心の声だけで人間を殺すことさえできるのです。
しかし、そのときの悲鳴はまちがいなく、ただの、音の声でした。
龍が繰り出した腕には爪がなく、代わりに、五本の華奢な指がついていました。指は王子の胸板にあたり、そして、グキリという鈍い音を響かせます。
痛みに短い悲鳴を上げます。先ほど何ダースもの矢を受けたときも、槍で突かれたときも感じなかった、いつまでも続くじんじんとする痛みです。
龍は顔をしかめ、自分の両手を見つめます。それはやはり、五本の指を持つ二つの手です。いや、それどころか、自分の身体が何もかも変化しています。胸も、お腹も、両の足も、すべて白くて細いものに代わっています。
それに、目の前にいる王子と賢者が、事実として自分より大きいことに気が付きました。彼らが龍を見下ろしているのは、単に龍の方が小さいことが理由だったのです。
いつの間にか、夜は白々しく明けて朝が来ようとしています。王子と賢者のもとに、つぎつぎと街の兵隊たちが集まってきました。彼らは一様に、龍を見て、怪訝な顔をします。
龍は自分が見世物になっているようで不快でした。人間どもを薙ぎ払ってやろうと尻尾を振り回す動作をしましたが、龍にはもう尻尾がありませんでした。空を飛ぶために羽を広げようとしましたが、羽もありません。炎の息を吐こうと大きく息を吸い込んで吐き出しましたが、ただ、冷たい空気に白い息が漂うだけです。
そうして龍は、ようやく、自分が人間の少女と同じ姿をしていることに気が付いたのです。それは、人間にすれば十四、五歳の、長い黒髪と白い肌の少女に見えました。
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