不死身の少女

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不死身の少女

 少女?  そう、龍は女性だったのです。  何千年も生きてきて、何も成長することがなかった少女です。  退屈を嫌い、怠惰(たいだ)を好み、弱いものを踏みにじる、残酷な少女です。 「龍が相手とはいえ、気が(とが)めるな」王子は剣を振りかぶりました。「賢者よ。それにしても、なぜ、この姿なのだ? なぜ龍はこんな少女の姿になったのか?」 「この世には魔法で人に化ける魔物がおります。この魔法はその応用で、魔物を強制的に人に化けさせるのです。変化したあとの姿は、魔物の心のあり方を反映します。今の龍は、見た目通りの力しかありません」 「龍の内面が幼い少女だと? 悪い冗談だ」  王子は剣を振り下ろし、龍の身体を深く切り裂きます。龍は苦痛に悲鳴を上げて、倒れました。龍は覚えている限りで五千年は生きていますが、こんな痛みは初めてです。  黒髪の少女は血を流し、もだえ苦しみ、やがて事切れました。 「終わったか。あっけない龍退治だったな」  王子が剣の血をぬぐっていると、賢者が彼の腕をつかみ、注意を(うなが)します。  龍の身体が痙攣(けいれん)しています。ぱっくりと開いていた傷口がたちまち(ふさ)がり、生き返ってしまいました。龍の目が動いて、王子の顔を(にら)みつけます。  王子は驚き、再び剣で龍の喉を突きました。これも間違いなく龍の呼吸を止めて、彼女はごぼごぼと血液に泡を浮かべながら死にました。  しかし、やはり数秒で傷口が(ふさ)がってしまいます。盛り上がった肉に押し出されて、王子の剣は甲高い音を立てて石畳(いしだたみ)に転がります。
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