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「やはり、こうなりましたか」
賢者は独りごちて、懐から金属製の首輪を取り出しました。それを、龍の細い首に取り付けます。
王子がそれは何かと尋ねると、賢者はこう答えます。
「これは古代遺跡で魔法の書と一緒に見つけた首輪です。人に姿を変えられた人ならざるものに、術を解かれぬために付けておくものです」
「その首輪が外されない限り、龍はこの姿のままというわけか」
「左様でございます」
しかし龍は鼻先で笑います。
「妾にはたくさんの下僕がおるのじゃ。その誰かがこの首輪を外し、術を解けば、次の日にはお主たちはすべて炭の塊になっているであろう」
不安そうな声が、兵士たちの間に広がります。王子は龍の胸を剣で一突きして、ひとまず黙らせました。
ふたたび蘇る龍を前に、賢者がこう提案しました。
「王子。龍を殺すことはできないようです。しかし、奈落に投げ込むことはできます」
「奈落、だと? 地獄に通じる巨大な穴のことか? 話は聞いたことがあるが、迷信だと思っていた」
「迷信ではありません。かつて天地創造の折に創造神と魔王が戦ったとき、魔王が突き落とされたという奈落の穴は、実在しております。私は若いころにそれを自分の目で見ました。ここから東へと十日と十晩馬で走ったところにある、この王都ほどの大きさのある真黒い穴でした。その底に、この龍を封じるのです」
「それで、龍は死ぬのか?」
「わかりません。しかし、奈落に落とされた者が戻ってきたという記録はありません。戻ってこれないのであれば、少なくともこの世界にとっては死んだのと同じことです」
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