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王子と兵士たちは剣を振り、槍で払い、これをさばいていきました。
訓練した兵士たちの手にかかれば、食屍鬼はたいした敵ではありません。
しかし問題は、食屍鬼が元は人間であったという事実にあります。
若い兵士の一人が、泣き声のような悲鳴を上げました。彼の目の前には一匹の女性の食屍鬼がいます。それが、つい先程の宴会で一緒に踊ってくれた給仕の女であることに、彼は気がついてしまいました。
ふくよかで明るい笑みを浮かべていた女は、いまや虚ろで濁った目を彼に向けています。彼は手にした剣の切っ先を下げ、女を斬ることを躊躇いました。
「馬鹿! 何してる!」
王子が注意を促しましたが、その兵士の耳には届いていません。次の瞬間、女の食屍鬼は兵士の喉笛めがけて噛み付き、態勢を崩した彼の元に他の食屍鬼たちが殺到して、彼はあっけなく餌食となってしまいました。
「怯むな! 押し戻せ!」王子の号令のもと、兵士たちは倒れた同僚を食い尽くそうとする食屍鬼たちを斬り捨てて、陣形を立て直します。
賢者は光の魔法で、アルゾは得意の弓矢で彼らを援護しました。
馬車に集まってきた食屍鬼たちをあらかた片付けたところで、王子は笑い声を聞きました。艶やかな女の笑い声です。
声のする方向を見ると、一人の女が上空から王子たちを見下ろしています。
赤い瞳、艶やかにたなびく髪、黒いコウモリのような羽。おそらくは空を飛ぶ魔術を使っているのでしょうか、羽ばたくことなく宙に浮いています。
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