龍の山

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「退屈なされているようですね。また、演劇でも開催いたしましょうか?」  龍は何も答えません。 「それでは、奴隷と獣を戦わせましょうか? 先日、恐れ多くも主様(ぬしさま)を害そうと宮殿に足を踏み入れた人間どもを捕らえております。奴らをどのように痛めつけて殺し、食ってやろうかと、我が妹たちが知恵を絞っております。予定を早めて、巨獣の餌としてやりましょうか?」  龍はあくびをします。  パラメシアが困ったように首をかしげます。思いつくかぎりの娯楽と美食を用意して献上しても、龍が関心を示すことは滅多にないのです。 「それでは、主よ――」と、パラメシアが口を開きかけると、背後から一つの声がします。 「お姉さま」  そう言いながら駆けてきたのは、パラメシアの妹の一人、ファルトです。両手で水晶球を抱えています。  パラメシアは顔をしかめました。 「主様(ぬしさま)の前で、お姉さまと呼ぶな。丞相と呼べといっただろう?」  パラメシア本人は、龍は王で自分はその忠実な部下で第一人者。そういう認識だったのです。龍がそれを肯定したことはないのですが。  ファルトは出鼻をくじかれて、泣きそうな顔をしましたが、気を取り直すと、水晶球をパラメシアと龍に見えるように差し出しました。  パラメシアの妹たちは、それぞれ何らかの特技を持っています。水晶玉を用いた千里眼をファルトは得意としていました。龍の山を滅ぼそうとする勢力は数多くあって、それらを監視するのがファルトの役目です。 「ルーダリア王国をご存知でしょうか?」 「ルーダリア? 五十年ほど前に滅ぼしたのではなかったかな?」と、パラメシアは答えます。彼女の知るルーダリアは、かつて、周辺の国々を糾合して、大軍隊を龍の山に送り込んできた人間の王国です。  そのときは龍に出撃を請い、まずは大軍の大半を炎の息で焼き払ってもらいました。その残りは、パラメシア率いる不死者たちで皆殺しとして、数日でケリを付けてしまいました。 「滅ぼしましたが、その生き残りたちが同じ名前の王国を作ったのです」  ファルトが姉の知識の穴を塞ぎます。 「それで、その死に損ないどもの王国がどうしたというのだ?」 「また、我が主を害する計画を立てているようなのです」 「またか。懲りない奴らだな」 「水晶球をご覧ください。ルーダリアの王と貴族どもが、こんな話をしていました」
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