龍の山

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 ファルトが低い声で魔法の言葉をつぶやくと、水晶球の中に映像が映し出されました。  石造りの壁に囲まれた部屋で、沢山の男たちが騒いでいます。  どれも貴族の服装をしていて、唯一、王冠を付けて玉座に座っている男がいます。これが恐らく王。他は家臣の貴族なのでしょう。 「王よ、お考え直しください。あの龍を倒すなど、前王朝と同じ轍を踏むだけです」  家臣の一人が怯えた声でそう言います。他の家臣たちも無言でうなずいています。  みんな龍が怖いのです。 「我が忠実なる家臣たちよ。もはや、龍は無敵ではないとわかったのだ。詳しい話は、賢者が教えてくれる。」  王が言いながら、自分の両横に立っている二人の男に目配せします。二人のうちの一人、藍色のローブをかぶり、メガネをかけた壮年の男が進み出ました。 「なんだこの男は?」  映像を見ていたパラメシアがいぶかしげな声を出します。 「王宮付きの魔法使いです。他の者からは賢者などと呼ばれているようです。姉さま」と、ファルトが答えます。  賢者は家臣たちに、一冊の魔法の書を見せました。 「かつてこの世界には、かの地の黒き龍に匹敵する存在が全部で三体いたといわれます。しかしそのニ体はもうこの世界にいません。(いにしえ)の偉大なる魔導士が、魔法をもちいて倒したからです。その呪文を、私は発見しました」 「龍を倒す呪文ですと?」  家臣の一人が興奮気味に賢者の言葉を反復します。 「そうです。私は諸国を旅して、龍を倒す方法を調べ続けてきました。そうして、西の果てにある古代の遺跡で、この魔法を手に入れました」  ざわめきが部屋を満たします。それは、期待と不安が入り交じる種類のものでした。  王の横にいたもう一人の男が、進み出ます。若くて端正で、王によく似た顔立ちの男です。彼は両手を広げて、家臣たちに訴えかけました。 「我らは先の王朝が滅ぼされてより今日まで、龍に怯え、隠れるように生きてきた。たとえ国民が龍の山のおぞましい不死者どもの餌食になろうと、ただ耐え忍んできた。だがその時代はもうすぐ終わるのだ」 「こいつは何だ? 王より偉そうだな」  パラメシアがそう質問するとファルトが即座に答えます。 「第一王子のロムルスです」  家臣の一人が疑念と希望を顔に浮かべて、問いかけます。 「王子よ。賢者よ。本当にあの黒い龍を倒せるというのですか?」
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