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「できます。古の魔導師の記録に従うなら、この魔法で龍を無力にできるはずです」賢者は自信に満ちた声で答えました。「ただし、この魔法は、術者の目で見える範囲にしか効果がありません。したがって、かの龍をおびき出す必要があります」
「それは、つまり……」質問した家臣が、賢者の次の言葉を察して、ゴクリと喉を鳴らします。はたして、賢者の言葉は予想どおりのものでした。
「まずは、軍団を用いて龍の山を攻撃し、龍が我らに反撃しようと姿を見せたところで、私がこの呪文を使うのです。これで龍を倒すことができるでしょう」
「バカな!」と、何人かの主だった家臣たちが恐怖を顔に浮かべて立ち上がります。
「先制攻撃を受けてしまえば、我々が壊滅することに変わりがないではないか! 前王朝の軍隊がどんな目にあったか知らないわけではないだろう!」
「龍が炎を吐き出しただけで十万の戦士団の半分が壊滅したというではないか」
「時の大賢者が用いた冷気の壁も、大僧正が祈りを捧げて得た神の加護も、龍の炎には無力だった」
彼らは口々に、過去に龍に立ち向かった人々の悲惨な最期を語ります。
賢者はなだめますが、彼らの恐慌を抑えることはできません。
「静まれ!」と王が一喝して、やっと家臣たちは口を閉じて、一人、二人と再びかしずきます。
王子は宣言します。
「あの龍を倒さなければ、我らは屠殺される時を震えながら待つ羊と変わらぬ存在のままだ。なんとしても、倒さねばならん。作戦の詳細は今後詰めていくが、一番危険な先陣は、私が自ら軍を率いて行くであろう。諸君らは、私を支援してくれればいい。周辺の同盟国にも使者を送り、加勢を募っている。龍を倒せば、我らは百年先、千年先までも、子々孫々に武勇を誇ることができる。どうか、諸君らの命を、私に預けてほしい」
そうして、王子が自分の剣を足元に置き、家臣たちに向かって膝をついて頭を垂れると、さすがの家臣たちも慌てふためきます。王族が家臣に向かって懇願することなど、そうそうあることではないのです。
水晶球の映像が途絶えたあと、ファルトは真剣な顔をします。
「姉さま、この者どもは、きっとこの山を襲撃に来るでしょう。それも大勢で、です。今のうちに、準備を整えるべきではないでしょうか。そうは思いませんか、姉さま!」
「龍を倒す魔法とは、気になるな」
パラメシアは、そうつぶやきつつ、ファルトの首根っこをつかみ、吊るし上げました。
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