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もしもその時、王都の住人が空を見あげれば、星の光に微かに照らされて、羽を広げた龍が空気を震わせていることに気が付いたでしょう。炎の息は、大量の空気を吸い込んだあと放たれるのです。しかし誰も空を見あげていませんでした。
龍は住人が眠る一角に向けて、炎の息を放ちました。
王都の誰も、いったい何が起きているのかを理解できませんでした。
灼熱の業火が、突然、王都を赤く照らして燃え上がったのです。
建物がなぎ倒される轟音と火のはぜる音、そして、焼き尽くされていく人々の悲鳴。そうした音が、一斉に沸き起こりました。
龍は住宅地が赤く染まるのを見て、満足そうに唸り声を上げます。
人間が火を消そうとして右往左往している様や、身体に火がついてしまった人間が金切り声で助けを求める姿は、龍の目を楽しませました。
住宅地を狙ったのは、いきなり王都の中央部を焼いてしまうと、件の魔法が使える賢者を殺してしまうかもしれなかったからです。件の魔法を自分の目で確かめるのが龍の目的なのですから、賢者がいそうになくて、王都の誰からも惨状が見えるような場所が標的としては適当です。
龍は、背中にチクリと微かな痛みを感じました。いや、全身のあちらこちらから、痛みが伝わってきます。下を見ると、沢山の人間の兵士が弓を手にして、城壁からこちらを狙っています。
ふん、と龍は鼻を鳴らします。
痛みがあるといっても、人が蟻に噛まれた程度の痛みにもなりません。人の弓などその程度のものです。手近な城壁を見定めて、龍はその上を撫でるように低空飛行します。
たちまち、兵士たちは龍の爪にかかり、薙ぎ倒されて、城壁から転落していきます。
代わって、剣や槍を手にした兵士たちが、龍へと果敢に立ち向かいましたが、これも龍にとっては児戯のようなもの。彼らも爪と尻尾と牙で、蹴散らされてしまいます。
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