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ポスンと彼女の頭が胸元に落ちてきた。繋いだ手にキュッと力が込められる。
「……話、聞いてくれてありがとう。誰にも話したことなかった。でももしかしたらずっと誰かに聞いて欲しかったのかも知れない」
惺はまだ腫れている彼女の頬に手を伸ばし優しく触れて顔を上げさせる。涙の跡の残る頬が紅潮していた。
一年半前に見つけたガラス細工のように張り詰めた美しさを持つ女の子は今、最も脆く柔らかい場所を晒してもなお微笑みを浮かべながら惺を見上げている。
「本当のことが知れてよかった。でもそれ以上に霞月が自分で話してくれたことが嬉しいよ」
すると霞月はちょんと小首を傾げて「夕貴さんになに聞いたの?私のこと」と尋ねた。
惺は思わずげんなりと顔を顰める。
椎葉にも彼女なりの思惑があったのだろうが、そもそも始めからちゃんと惺が状況を知らされていたら、菊池にコンタクトを取り、他に幾らでもやりようがあったんじゃないかと思う。
溜め息を漏らしながら何か言おうと口を開いた時、コンコンッと軽いノックが聞こえ、振り返れば当の本人が躊躇いの一つも見せずに扉を開けたところだった。
「よお」
男のような調子で二人に声をかけると、涙の色が残る霞月を見て「おっまえはいつも嬢ちゃん泣かせんなぁ」と歪んだ笑みを浮かべながら人聞の悪いことを言う。
「ちょうど夕貴さんの話してたよ」
「何だそれ、ぜってーロクな話じゃないだろ」
ハハッと笑いながら霞月と惺が座るベッドの隣にある小さな椅子に椎葉は音を立てながら座った。
こうして霞月と話す椎葉は相変わらず口は悪いものの、探偵事務所で会った時とも、電話で話した時とも印象が違う。
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