4.カスミソウ

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 別に霞月はその才の全てを天啓に恵まれて手に入れたわけではないのだ。  全て祖母の愛と自分の努力で培ってきたものだったのだ。今だって彼女は時間を見つけては忙しく何かをしている。惺と暮らし始めてからも常に何かを吸収しようとしていた。自分を律しながら、図書館に通い、部屋にある惺の本に手を伸ばし、オンラインのリソースを使い、習い事も増やした。  それは全て祖母の教えで、彼女の愛の形だったのだ。 「何があっても自分の人生を立て直せるように……」 「うん、知識は窮地に立たされた時に選択肢を広げるって言ってたからね、文絵さん」 「すごい人だったんですね……」  それは年いった祖母にとっても楽なことではなかったはずだ。周囲からの風当たりも強かったに違いない。学校に通わせ、教師に任せた方がよっぽど簡単で、心労も少なかっただろう。  それでも霞月を思うからこそ、祖母は自分が正しいと思うことを突き通したのだ。  その想いの強さに惺はただ感服するしかない。 「霞月ちゃんは何だかんだおばあちゃん子だし、優しい子なんだよ。あの子のすごいところはさ、何があってもきっちりやり遂げるんだよ。文絵さんだって相手が子どもなのわかってるから、なにも無理矢理やらせてたわけじゃないんだよ。でも霞月ちゃんは泣きながらでも絶対最後まで諦めないんだ」 「あの子は泣き虫だったからね」と言いながら浮かべた菊池の柔らかい笑みは、娘の幼い頃を思い出す父親の顔に似ている。  『おばあちゃんはイジワルだった』  彼女はそう言ったが、それでも祖母の愛を受け止め、彼女のなりに精一杯のやり方で愛情を返していたに違いない――。
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