92人が本棚に入れています
本棚に追加
/478ページ
「――やっ」
不意に甲高い霞月の声が病室から聞こえた。
ハッとしてバスルームの振り向き、顔を拭きながらドアを開けた。
「霞月?」
ベッドで眠る霞月は目を瞑ったままだったが、その顔は苦痛を堪えるかのように歪んでいた。
咄嗟に痛みに苦しんでいるのかと思い、ナースコールに手を伸ばしたが、彼女が再び口の中で何かを呟いたのを見て、夢にうなされているのだと気づいた。
荒い息使い。
瞑られた目から涙が溢れ、こめかみを伝って溢れ落ちる。
ベッドに上がり、彼女の華奢な肩を掴んだ。
「霞月、霞月っ!」
ビクッと震えて、瞳を見開いた霞月は、惺を見て、天井を見て、最後に窓の外を見ると、荒く呼吸をしながら呆然とした。
「大丈夫?うなされてた」
目尻に残る涙を掬いながらそう言えば、飛び起きた彼女が抱きついてくる。
余りの勢いに惺はバランスを崩し、そのままベッドから二人揃って落ちそうになるのを何とか手を着いて踏み留まった。
霞月はもう平熱に戻っているようだったが、髪も服も汗でしっとり濡れ、体が僅かに震えていた。
囁くような小さな声で彼女が言う。
「夢……みた。いつもの夢――」
「いつもの夢?」
霞月が惺の肩の向こうで頷いたのが分かる。
「……うん、惺とサクと、私とか……お兄ちゃんとで演奏するの、『私のお気に入り』。でも突然お兄ちゃんが居なくなって、探しにいくと……」
そこで彼女は言葉を途切れさせ、顔を惺の肩に埋めた。溢れた涙が惺の肩を濡らしていくのが分かる。
最初のコメントを投稿しよう!