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「ま、んなことはいいんだけどよ。石庭、お前疲れてるだろ。一旦帰ってまた明日こいよ。暫くはあたしが嬢ちゃんといるからさ」
「は?」
どれだけ印象が違おうが、よく知らない人間、しかも碌でもない組織と関わっている人間にそんなことをさせられる訳がない。
「いや、それはさすがにさせ……」
「へーきだよ、惺。夕貴さんは昔から知ってるから」
惺の言葉を遮るように霞月が言った。
「昔からって、ここ一年のことでしょう?」
すると彼女は僅かに考えるようなそぶりを見せて、ふるふると首を横に振った。
「違う、初めて会ったのはお父さんとお母さんと香純のお通夜だったはず」
「え?」
驚きに椎葉を振り返ると、彼女は微かに目を瞠り、きつい印象を与える目元を少し下げて、眉を左右非対称に歪ませながら首の後ろに手をやって大きく溜め息をついた。
「あー、覚えてたか」
霞月は口元に笑みを讃えながら、困ったような表情を浮かべた。
「気づかないはずないよ。だってどこにでもいたでしょう?図書館にも、公園にも、スーパーで買い物してる時もいた」
椎葉は口元に手をやりながら「参ったな、こんなつもりじゃなかったんだけどな」と呟いた。その顔は本当に戸惑っているようで、何を口言葉にするか決めかねているかのように見えた。
「嬢ちゃん、また泣くからな……」
「私?」
キョトンとした霞月が首を傾げると、「ああ」と椎葉が同意して、小さく切なげな笑みを浮かべる。そしてまだそこに置かれたままの霞月の家族写真に視線を下ろすと、躊躇いがちに手を伸ばした。
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