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「……あん時はチビだと思ってたけど、やっぱちょっとはデカくなったんだな」
じっと写真を見つめるとその横顔には哀愁が漂って見える。
左の口角だけで歪んだ笑みを作った椎葉は「いい写真だな」と言って、それを霞月の手に戻した。
「――会ったことあるんだよ」
手元の写真に視線を落としていた霞月はその言葉にパッと顔を上げた。
「え?」
「香純。歌、歌ってくれたんだ、『私のお気に入り』」
驚きに息を呑んだ惺の横で、霞月は動きを完全に止め、零れて落ちてしまいそうな程大きく目を見開いて椎葉を見つめていた。
「あの頃のあたしは地獄の真ん中に居たみたいなもんでさ、キラキラして底なしに明るいあいつが羨ましくて、憎くもあったんだ。でもあいつの歌声はスッゲー特別で、なんか許された気がして、――多分救われたんだよ」
全く想像していなかった繋がりの露呈に驚き、惺は呆然としたまま隣の霞月を見やった。彼女は口を緩く開いたまま椎葉を見つめ、息すらしていないかのように硬直している。
「あいつがさ、言ってたんだよ。『俺が怒る時は妹を守るときだ』って。『俺の妹はすっげー可愛いから悪いやつから守ってやるんだ』って」
ひゅっと霞月の喉が引き攣ったように鳴って、目を瞠ったままの霞月の瞳から涙がポロポロと溢れ始めた。
「あいつが死んだって知ったのは、ボス……、お前の親父の兄貴に言われて行った通夜でさ、そん時お前見て、なんか思っちゃったんだよな、『もしお前が困ってんならあいつの代わりに手くらい貸してやってもいい』って」
霞月は白い手で顔を覆うと小さく声を漏らしながら泣きじゃくった。
それを見た椎葉はあの左右非対称な笑みを浮かべて、霞月の髪を掻き回す。
「泣くなよ。ぜってーあいつギャーギャー怒ってんぞ?」
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