5.虹の麓

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 あれから三日が経った。  霞月の熱はあれ以降も暫く続いたが、ようやく落ち着ついた今は精神的にも安定しているように見える。  痣はまだ残るものの顔の腫れは分からなくらいになったし、肋骨の痛みは相変わらずだが、バンドで固定している時は比較的動けるようになっている。足の捻挫の装具も退院時には外す予定だそうだ。  そう、退院の話が出始めた。  菊池はあの日のうちに警察に届出を出して、翌日には担当者が病室を訪れて、彼女に聞き取りをしていた。利春はあれ以降自宅にも帰っておらず、警察も椎葉もまだ居場所を掴めていない。  菊池によれば、霞月の親権を持つ伯母夫婦は、今回の件を以ってそれを放棄する意向であることを通告したらしく、同時進行でそちらの協議も行われているらしい。 「――さて、霞月ちゃん、今日は僕もたんまり時間があるからゆっくり話し合おうか」  そう言って椅子に座り、にっこりと笑う菊池に霞月があからさまにうんざりした表情を作る。  霞月の件を処理するために、仕事をかなり他の弁護士に割り振ったらしい菊池は、毎日朝と夕に必ず顔を出しており、日曜の今日も彼女の昼食が終わった頃にやって来た。  対する惺も甲斐甲斐しく朝から差し入れを持ってやって来ているので、似た様なものだ。アパートに一人でいても落ち着かないのと、彼を見た瞬間に彼女の顔が明るくなるのが分かるため、できるだけ病院で時間を過ごすようにしていた。 「時間あっても何も変わらないけど?」  ツンとした鼻を上に向けながら言い放たれた言葉は生意気極まりない。
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