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「僕も弁護士だからね、君の意見を変えるために最後まで粘るよ?」
菊池の言葉を裏付けるように、この三日間、惺はこの攻防をずっと見てきたのだ。
現在菊池は未成年後見人として財産管理を任されているが、彼女の親権は伯母の元にある。それを今回菊池が代わりに獲得しようとしているのだ。
惺にしたら、菊池にその気があるのならこれ以上いい話はないと思うのだが、霞月は毎回その話をのらりくらりとかわし続けていた。
「霞月ちゃん、流石にわかってると思うけど、このままだと確実に君の伯母さん達は親権を放棄するよ。つまり――」
「十中八九、施設送りになって裁判所が任命した誰かが私の親権者役になるんでしょう?それでいいよ」
嫌気が差してるらしく、早くこの話はおしまいにしようと言わんばかりの調子で霞月はそう言ってのけた。
だがそれに面食らったのは菊池と、そして出来るだけ口を挟まないようにしていた惺だ。
「いやいや、よくないでしょう。なんでそういう話になるの?せっかく菊池さんが霞月のこと見てくれるって言ってるのに」
すると彼女は横目で惺を睨む。
「惺はちょっと黙ってて。……菊池さんにはいつも感謝してる。でも自分の生活を維持するために誰かを不幸にするつもりはないよ」
「不幸?なんで僕が不幸になるの?」
眉間に皺を寄せながら聞いた菊池をじっと見つめると、表情を隠した彼女が遠くを眺めるように視線をぼかす。
手元のシーツが緩く握り込まれ皺を作った。
「……おばあちゃんが亡くなった後に、私を養子として引き取りたいって言って婚約者と別れたくせに」
「ええっ?誰がそんなことを?!」
驚きに目を瞠った惺の横で、菊池が驚愕に声を上げた。
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