5.虹の麓

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 ――そうか、彼女の『思い込み』は家族の死だけが原因じゃなかったのか。 『呪い』などという非科学的な発言は彼女らしくないが、そうとしか思えないくらい次から次へと色々なことが起きたのだ。利春の行動だって、霞月にとっては『呪い』の一つに違いない。これだけ自分の周りで問題が起きていれば、元々自分を責めていたことに相俟って『呪い』のような形のないものを信じそうになるのもわかる。 「……それに、おばあちゃんもいつも言ってたし」  また声のトーンを落とした霞月に、少し考え込んだ様子だった菊池が「ん?」と顔を上げた。  彼女は二人の視線を避けるように軽く目を伏せながら、小さく噛んだ唇を緩め口を開いた。 「『あなたの目は禍事(まがごと)を呼び寄せるから、自分の行いに気をつけなさい』って」  ――目?禍事……?  長い睫毛に包まれた万物を吸い込みそうな求心力のある黒い瞳。初めて出会った頃はその瞳に見つめられるだけで、ゾクゾクと自尊心と昂らせたものだ。  キョトンと目を丸くした惺は思わず菊池と目を見合わせて、次の瞬間、同時に吹き出した。 「ハハッ!」  唐突に二人に笑われた霞月は憤然として彼らを見つめ返す。  彼女のベッドの足元の方に座って二人のやりとりを眺めていた惺は、スッと彼女の隣に移動すると、目元に色気を漂わせながら霞月の顎に指を添わせ、その魅惑的な黒い瞳を真っ直ぐに自分のそれに絡ませた。  彼女の頬が紅潮する。 「そうだね、是非とも行いには気をつけてほしいね。キミの瞳は清艶にも蠱惑的にも瞬いて、男たちを魅了して惑わすから、隙を見せないように行動してもらわないと」 「……え?」  赤らんだ頬の彼女が訝しげに眉を寄せるが、無防備なそれがやたら可愛い。菊池の前であることなど一気にどうでも良くなり、クスリと笑いを溢しながら黒い髪を指に通して弄ぶ。
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