ノアちゃんの箱舟

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 こうして2週間後がやって来ました。  彼女の予言どおり大洪水がやってきて、世界はすべて水の下に沈んだのです。  ノアちゃんの船に乗せてもらえなかった私は、誰にも気づかれることなく、水に溺れて17年の一生を終えました。  ノアちゃんの話を真に受けていなかった彼女のご両親も、きっと私と同じ運命をたどったことでしょう。                ---  そうして地球上を覆いつくした果てしない海原の片隅に、小さな漁船がこころもとなく浮かんでいる。  そこには、10人程度の高校生が乗っていた。  だれも船の操作には詳しくないようで、ただ船の上にしがみついている。  天変地異の、生存者。彼らの世界は、一日にしてめちゃめちゃになってしまった。 「洪水の予言、本当だったんだ……」船の上の一人が呟く。  しかし彼らの表情はどういうわけか、少し満足げだ。 「でも、ノアちゃんに選ばれたおかげで助かった」もう一人が、続いて口を開く。 「やっぱり俺らみたいにイケてる奴らが生き残れ、っていう神様の啓示なんだな。陰キャなんてそもそも社会でも役に立たないんだし」 「ノアちゃんを中心にして、有能な俺たちがまた新しい世界を創ろう」  彼らはそう笑いあった。 「ちょっと待って」  するとノアが急に、皆をさえぎる。 「いま、また神様から予言が来たわ」 「新しい陸地にあたしとたどり着けるのは、5人だけだって。」  高校生たちは、顔を見合わせる。 「じゃあ、それまでにできるだけ沢山あたしを笑わせてくれた人から順に選ぼうかな」  彼女は、とびきりの笑顔を見せた。  こうして格付けしあい、選ばれることに恍惚とする者たちに、安寧の日がやって来ることはないのだった。 (完)
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