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そんなある放課後のことでした。
彼女が、大真面目な顔をして、あんなことを言い出したのは。
「真剣に」
「あたし、夢に神様が出てきたんだよね」
授業が終わった後の教室で、ノアちゃんはいつものように同級生たちに囲まれていました。
今日は一体どんな面白いことを言い出すのかと、彼らは好奇のまなざしを彼女に向けます。
「なんか神様、人間の世の中に怒っててさ。それでもうすぐ大洪水が起きて、人類が滅亡するんだって」
「なにそれ、大昔の神話の話みたいじゃん」と横にいた別の子が口をはさみます。
「そう、だから同じことがもう一回起きるみたい」
教室の端っこでそんなやり取りを聞いていた私は(そう、私は決して同級生の輪に加わることはないのです)、ノアちゃんに賛同するように小さくうなずきました。
神話に出てくる洪水も、もとはと言えば大昔に実在した洪水が語り伝えられたものだと、私はどこかで読んだことがあったからです。
ですから、あのレベルの大きな洪水がまたやってくることも不可能ではありません。
「えぇ……なにそれ、怖い」誰かが小さく応えます。
もしかしたらまた、大地震にともなう大津波でもやってくるというのでしょうか。
そんな忌まわしい大災害の予言めいたものは、ネット上にいつも溢れています。
「でね、神様が言うには」
ノアちゃんは真面目な顔で続けます。
しかしそんな話をしている時も、彼女はとにかく美しい。あの茶色い髪の毛先は地毛なんだろうか、それともこっそり染めてるのかな……
「みんな、それに呑まれて助からないから……あたしが好きな友達だけ選んで、一緒に船に乗れって」
皆、笑った顔を保ちながら、今度は少し違った意味で内心ぎょっとし始めたのが私にはわかりました。
「え……ノアちゃんに選ばれた人だけが、その船に乗れるってこと?」
「うん……他の人の船じゃ、助からないみたい。神様に選ばれた人の船じゃないといけないって言われた」
「ちなみに、何人くらい選ばれるの?」
「最近亡くなったおじいちゃんの漁船がまだあるから……よく分からないけど、10人ちょっとくらい乗れるかな、きっと」
「で、それはあとどれくらいで来るって?」
「あと2週間くらい、って言ってたと思う」
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