柳は緑、花は紅

名もなき男

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　大きく見開かれた子ども——莉(れい)の目を、取り憑かれたようにまじまじと見ていた男の首が、次の瞬間がくりと折れ、支えをなくした頭は鈍い音と共に地面に張り付いた。

　男の顔面には砂利が突き刺さり、鼻は潰れ、半開きであろう口からは赤い雫がだらだらと流れ出している。地面に染み込んだ雫は赤から黒に色を変え、もう動くことのない男の体を包んでいく。

「あの女って誰のことだろうね」

　莉は隣に立った女の手を取り、無邪気な笑顔で問いかける。なんとも愛らしい甘い声だ。女——沙和は、しっとりとした小さな手を握り返し「そうね。誰のことかしらね」と答えてみせる。

「きっとあの人は悪い夢を見ていたのでしょうね。でも、全てから解放されたのだから、それはそれで良かったのだと思うわ。さぁ、そろそろ行きましょうか」

　沙和は子どもの手を引き、ゆったりとした所作で路地裏を歩いて行く。その顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。