脱せよストーカー予備軍

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「明智さん、...っ」 「あ、?」 「ちょ、タンマです...!」 伊丹に触れられることが嬉しくて、つい夢中になってその唇を貪っていれば、突然伊丹からそんな声が掛かる。 仕方ないなと顔を離して様子を窺えば、そこには余裕のなさそうな顔で困ったように眉を下げる伊丹が見えた。 今し方まで重ねていた唇はどちらのものとも分かぬ唾液でしっとりと濡れていて、その姿が妙に妖艶で明智は目が離せなくなる。 「俺の思ってた「お試し」以上のことがさらりと行われるので焦りました」 「まだまだこれからだろ」 「明智さんの経験値で語らないでくださいよ。俺そんな慣れてないです、」 そう言って伊丹は恥ずかしそうに視線を伏せるので、下からぼんやりと眺める。 「伊丹、こっち向けよ」 「今無理です」 「何で」 「...なんでもです」 頑なに視線を合わせようとしない伊丹に、明智はそっと頬に手を添えて無理やりこちらを向かせた。 驚いたように目を見開きながらもじっと視線を合わせてくる伊丹に、明智はくすりと笑う。 「ほんと可愛いな」 「...それは絶対ないですって」 「あるんだよ。伊丹のことどんだけ好きだと思ってんだ」 「...」 今まで頑なに秘めていた素直な気持ちを言葉にしてやれば、伊丹はバツが悪そうに視線を逸らした。 そして覆い被さるような体勢を取っていた伊丹はその身体を退けて布団へと横になるので、しっかりと手は握ったままぼんやりと天井を見つめる。 視界から伊丹がいなくなったことで、「これは実は全部夢でした」なんてオチじゃねぇだろうなとお得意の妄想癖に不安になりつつ、ちらりと横を見ればちゃんと伊丹がいる。 「..はあ、今日は伊丹ラブタッチが過ぎるな、」 「え、何ですか?...ラブ、?」 「...何でもねぇから気にすんな」 まだまだ伊丹に言ってないことが多すぎる。 きっと謝らなければならないことも沢山ある。 明智は自身のストーカー紛いの悪行を反省しながら、隣で一緒になって天井を見ている伊丹の腕を引いた。 「どうしました?」 「...今日、こっちで寝ろよ」 「え」 離れたくないし、離したくない。 少しでも近くで伊丹を感じでいたい。 無意識にも近い形で漏れ出た言葉に、伊丹は驚いたように目を見開いてから、次の瞬間には悪戯な笑みを浮かた。 「...明智さんが、どうしてもって言うなら」 どこか聞き覚えのある言葉にはっとして、とことん俺をときめかせに来るんだなと、無自覚らしい伊丹の目をまっすぐと見つめる。 「...どうしても、そうしたい」 「しょうがないですね」 こんなところで今さら嘘をつく必要もないと、お約束となっている言葉を返せば、伊丹は満足げな表情を浮かべた。 そんな姿を見届けて、明智はおもむろに腕を広げる。 それは前にもした腕枕の誘いと同じで、伊丹は小さく笑ってからその腕の中に収まった。 「明智さん」 「...なんだよ」 「やっぱり俺、嫌じゃなかったです。今もなんか落ち着いちゃってるし」 「...」 本当にそう思っただけで、伊丹のその言葉に深い意味はないのだろう。 しかしそれでも明智は喜んだ。 「...これからちゃんと俺に惚れさせてやるから、覚悟しとけよ」 「はは、覚悟しときます」 その日はそのまま二人で眠りについて、こんなにも記憶に残る日になるとは思っても見なかったなと、明智はひっそりと幸福感を噛み締めた。
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