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「野暮なこと聞いてもいいですか」
「あ?...なんだよ」
「...明智さん、俺なんかのどこが良いんです?正直俺、人に好きになってもらう要素ゼロだと思うんですけど」
こんな機会じゃなきゃ聞けないだろうと思い、伊丹は思い切ってそんなことを尋ねてみる。
すると明智は面食らったような顔をしてから、ゆっくりと口を開いた。
「...伊丹は自己評価低すぎんだよ。好きになる要素しかねぇだろ」
「え、明智さんにそんなこと言ってもらえるとか俺死ぬのかな」
「真面目に聞け。今から言ってやるから」
「..はい」
あまりにも直球な言葉に照れ隠しするようにふざけてみるが、それもすぐに言葉で制されるので伊丹は大人しくしておくことを決める。
そして明智は重ねていた手を握り直して伊丹に向き直るので、伊丹も無意識に背筋を伸ばしてその先の言葉を待った。
「まず、伊丹はすげぇ周りに気遣いできんだろ、人が見てないとこでも仕事は責任持って最後まできっちりやるし、何事にも一生懸命だ。...なのに自分の事になるとめちゃくちゃ無頓着だし、無駄に自己評価低いし、そうじゃねぇって言っても響いてる感じしねぇし」
「あれ、さり気なく俺のダメ出しきてますこれ?」
「...は、まあな。でもそんな、どっか抜けてる部分も好きなんだよ。守ってやりたくなる」
明智はそう言って珍しく口元に笑みを浮かべ、「それにすげぇ可愛い」と口にした。
「...可愛い...?」
「ああ、とんでもなく愛おしいぞお前」
「...ええ、」
あまりにも言われ慣れない言葉に伊丹が瞠目していれば、明智は何故かいきなり顔を伏せるので、何事かとその様子を窺う。
「...やべぇ全部言っちまった、」
「なにを今更...」
「もう自分を制御できる自信がねぇ」
「でも明智さんいつもクールだし大丈夫じゃないですか?」
「...クールなわけねぇだろ。いつも伊丹のことで頭いっぱいだし、いざ対面すると余裕もねぇし、それで碌な返しも態度も取れねぇし...」
いつになく弱気になっているらしい明智を見ていると、人は本当に見かけによらないんだなと伊丹は改めて思う。
自分にとって明智は、仕事もできて人望も厚く、何をするにも突出している完璧な存在だった。
しかし今まで接した中でも感じ取れるくらいには明智の人間味ある部分を見てきたつもりだ。
そう思うとなんだか可愛いなと思えてきてしまって、そう考えてから一体自分は何を考えてるんだと雰囲気に呑まれそうになるのを必死に堪えた。
「明智さんがたまに取り乱すのがそういう理由だったかと思うと、なんか...こう...すごく気恥ずかしい感じしますね」
「...」
「でも納得がいきました」
伊丹はそう言って、未だに顔を伏せている明智を気にかけながらも言葉を続ける。
「これからはぼそぼそ言わずに、もっと素直に吐いてくれて良いですよ」
「伊丹、」
「なんだかんだ俺も明智さんのこと好きなので、受け止められることは受け止めたいです。....少し頼りないかもしれないですけど」
伊丹にそんなことを言われて、明智は思わず顔を上げる。
そうすればばちりと視線が合うので、目が離せなくなる。
「....」
「明智さん、....一個試してみたいことあるんですけど良いですか」
「あ?...なんだよ」
妙に真剣な面持ちでそう尋ねられて、明智はごくりと唾を飲んだ。
その緊張が伊丹にも伝わったのか、躊躇いがちに口が開かれる。
「もう一回、キス...してみていいですか」
「は、」
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