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「ほんとに良かったんですか?」
「あ?だから良いんだって。俺がそうしたくてしてんだから気にすんな」
「...はい」
電車に乗ってもなお明智が二次会に行かなかったことに納得感を得ていないらしい伊丹は躊躇いがちにそう聞いてくる。
明智はそれに迷いなく言い返し、伊丹の髪をぽんぽんと優しく撫でた。
「伊丹は気にしすぎた。俺のこと誰だと思ってやがる。俺は自分の意思でしか動かねぇの知ってんだろ」
「はは、そうでした」
そう伝えれば納得したように笑う伊丹を見届けて、飲み会の最中からずっと考えていたことを口にする。
「ちなみに今日このままうち来て欲しいっつったら、...来てくれるか」
「それは、どうしてもですか?」
「あ?...どうしてもだよ...」
「しょうがないですね、なんて。俺も明智さんと一緒にいたいし、話したいこともあるし、勿論です」
いつもの二人のお決まりのやりとりをして悪戯に笑う伊丹に可愛い奴だなと思いつつ、話とは何だろうかと考え込む。
まさか今日同期と色々接して、やっぱり俺とのことは無理だとなったのでは...
考え始めるとマイナスな思いが浮かび上がるが、伊丹はそんな明智の不安を察してか、困ったように笑って言葉を続けた。
「おそらく悪い話じゃないので安心してください」
「おそらくってなんだよ」
「はは、俺の謙遜です」
「なんだそれ」
お互いの間にいつも通りの穏やかな時間が流れている事を自覚して、今日も伊丹と過ごせるのかと明智は嬉しくなった。
••••••••
その後二人で明智の最寄駅で降りて、普段から世話になっている酒屋で適当な酒とつまみを購入する。
店員からの「いつもありがとうございます」という言葉が妙に照れ臭く感じた。
帰宅して部屋に入ればすぐにいそいそと冷蔵庫にものをしまい始める伊丹に、とりあえず座っとけよと声を掛け、明智もその隣に腰を下ろす。
「んで話って?悪い話じゃねぇこと信じてんぞ」
「はい。...えっとまあ、端的に言うと、告白してくれたことに対する俺の答えですね」
「は、....待て、心の準備させろ」
伊丹の言葉に、明智は思わずどきりとする。
そんな明智の反応を伊丹は目を細めて眺めた。
「...よっしゃ、こい...」
意を決して受け入れる準備を整え、目の前の伊丹を見据える。
どことなく緊張感を帯びた伊丹の顔つきに、明智はその次の言葉をじっと待った。
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