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翌朝、部長に連絡を入れればすぐに返信があり、明智を含んで会議招集をかけてくれとのことだった。
何故明智さんまで...と考えて、明日の出張は明智も行くのかと悟る。
そしてちょうど会議依頼を送り終えたところですぐに明智から声が掛かった。
「伊丹」
「はい?...あ、明智さん」
「何で伊丹から出張関連の会議依頼きてんだ。そっちのチーム明日行くの前田さんだろ」
明智は不思議そうな表情を浮かべてそう尋ねてくるので、伊丹は苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「それなんですけど....なんか俺が行くことんなっちゃって」
「....!...なん、だと....」
「すみません、こんな急に担当者変わるとか不安ですよね。でも任せてください、ちゃんと知識はあるので」
「....っ、」
ただのいつもの出張だと思っていた明智は、伊丹のその言葉に心の中で歓喜する。
しかしそれを悟られないように、必死に表情を引き締めた。
「明智さんも呼ばれてるってことは出張に関して連絡事項がある感じですかね。後でまた声掛けるのでよろしくお願いします」
「...ああ」
明智にホテルが取れてないことを言ったらまた呆れられてしまうだろう。
伊丹はそう考え、ホテルの件はなるべく内密に
進めたいなとぼんやり考えた。
••••••••
「お疲れ様です」
「ああ、お疲れ。とりあえず二人ともそこに座ってくれ。明日の件について変更もあったし最終確認するから」
「はい」
部長に言われた通り腰を落ち着け、事前に展開されていた資料を取り出す。
それを確認した部長は、明日以降のスケジュールや作業内容について淡々と話をし出した。
「ここまでで何か質問は?」
「自分からは特にないです」
「私からも特には」
「よし、じゃあ最後に伊丹君の宿泊先の話だが...」
一通り説明も聞き終え、一旦解散してから個別の話になるかと伊丹は思っていたが、部長は特に気にする様子もなく話を続ける。
「明智君、急で悪いんだがホテルの部屋を変えてほしい。伊丹君から提案があった二人部屋が明智君のホテルと一緒でな。経費の都合上、同じ部屋に泊まってもらうことになる」
「ああはい...、え?」
「だから二人で同じ部屋に泊まれば実質経費が浮くだろう。このまま野宿させるわけにもいかないしな」
部長の突然の申し出に、伊丹も明智も顔を見合わせた。
まさかそんなことになるとは思っていなかった。
どれだけうちの会社がケチなのかを思い知らされるとともに、伊丹は明智を巻き込んでしまったことを申し訳なく思った。
「...伊丹ホテル取れてねぇのかよ、」
「はい。前田さんがもともと取ってなくて...」
「...あの野郎、...でかした」
「え?」
「...なんでもねぇ」
明智は脳内でソーラン節が炸裂するほど歓喜するが、いつもの調子で無愛想に振る舞う。
いつも伊丹に面倒事を押し付ける前田に、今回だけは感謝した。
「...仕方ないですね、わかりました。とりあえずホテルに連絡してみます」
「ああ頼む。同じホテルだろうからおそらく大丈夫だろう。また何かあったらすぐ連絡してくれ」
「はい」
部長はそれだけ言うと、明日はよろしく頼むぞと言い残してその場を後にした。
「...明智さん、俺また迷惑かけちゃってすみません...。まさかこんなことになるとは、」
「...迷惑じゃねぇから気にすんな」
申し訳なさを滲ませながら謝罪すれば、明智は何故か嬉しそうに笑ってぽんぽんと頭に手を置いてくる。
その様子に本心からそう言ってくれているのだと言うことがわかって、伊丹はほっと胸を撫で下ろした。
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