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「明智さん!こっちです」
「...!い、いたっ...伊丹、」
「おはようございます」
「...ああ。おはよ」
今日は待ちに待った伊丹との初遠出で、明智は自身のぶち上がるテンションが制御できずにいた。
ちなみに今日が楽しみすぎてまたしても寝不足気味だ。
新幹線の改札前で伊丹と落ち合ってからというものの顔のにやつきが治まらず、明智は咄嗟に手で口元を覆い隠した。
「え、大丈夫ですか。気分悪いです?」
「ちげぇ...。何でもねぇから気にすんな」
「何かあったらすぐ言ってくださいね、俺酔い止めとかも一応持ってきたので。...とりあえずもう移動しちゃいましょうか」
そう言って改札を抜けていく伊丹の後を明智はすぐに追った。
ホームで少し待てば新幹線がやって来るので、指定された席に腰を落ち着ける。
今日来るのが前田であれば速攻で寝るつもりだったが、今回はそんな気は毛頭ない。
隣で「新幹線っていつ乗ってもわくわくしますよね」と気怠げな目を僅かに輝かせている伊丹に悶えながらも、明智の伊丹観察には余念がなかった。
「...ああ、くっそ愛おしい、」
「え?」
「...なんだよ、何も言ってねぇぞ」
「またそれですか。明智さんいい加減観念してください。いつになったら認めてくれるんですか」
「意味わかんねえ」
最近はもう無意識に漏れ出る本心に、明智は内心冷や冷やしていた。
伊丹とも以前より打ち解けたおかげか、その追及も日に日に的確になってきている気もする。
「...油断は禁物だな、」
「え?ああはい、仕事きっちりやって気持ちよく帰ってきましょうね」
「ちげぇよ。...ほんとお前は、」
───可愛いな。
そう言おうとして、今し方したばかりの決心を思い出し寸でのところで明智は口を閉じる。
伊丹のそういうとこが愛おしくて仕方がない。
どんだけ鈍いんだ。
自身がいくら陰湿でストーカーまがいのことをしながら愛でているとはいえ、さすがに鈍すぎる。
人一倍他人のことは気にかける癖に、自分のことなるとこうも疎い。
明智はこの出張を機になにか進展しないだろうかと胸に期待を抱きつつ、まだ新幹線は出発すらしてないのにこの悶絶具合で、果たして俺の心は耐え切れるのだろうかと若干の不安に苛まれた。
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