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「明智さん、起きてください」
いつも自分の心を占有している愛しい声でそう声を掛けられ、明智の意識はゆっくりと浮上した。
「...あ?」
「おはようございます。もう次なので、そろそろ降りる準備してくださいね」
「...っ!俺寝ちまったのか勿体ねぇ...!」
伊丹は「寝ないとか言って結局寝ちゃうの面白いですよね」と笑っていたが、明智はこの伊丹との貴重な時間をただ寝て過ごしてしまったことを深く反省した。
目的地へと新幹線が停まったところで二人で荷物を抱えて降り立ち、出張先の現地の人間が迎えにくるという話の通り、改札を出た先ですぐに合流する。
「明智さん!あ、伊丹くんも!お久しぶりです、今日からまたよろしくお願いします」
そこにいたのは以前の出張でも案内や説明を担当してくれていた古賀という男で、物腰の柔らかい話し方で出迎えられる。
「車あそこ停めてるんで、とりあえずこのまま現場向かっちゃいますね」
「わかりました、お願いします」
古賀の指示通りそのまま車へと乗り込み、いつも見ている都会の景色とはまた違った街並みを伊丹はぼんやりと眺めた。
「そういえば伊丹くん大変だったでしょ?本当は前田さん来るって聞いてたのに割ときわきわで変更になりましたし」
「ああはい...その節はご心配お掛けしてすみません。僕もちゃんと知識はあるのでご迷惑だけはお掛けしないようにします」
「あはは違う違う、そこは心配してないですって。伊丹くん前来てくれた時もすごく一生懸命やってくれて、他の社員もまた伊丹くんが来てくれるって寧ろ安心してるんだから」
古賀の言葉に、歓迎されてて良かったと伊丹は胸を撫で下ろした。
こんなにも急に担当者が変わったら普通は信頼が落ちてしまう。
何が何でもこれ以上信用を貶めるようなことは阻止しなければと気を張っていたが、その言葉を聞いてどこか気持ちが軽くなった。
その後も車内でこのあたりのグルメ事情など緩く話をしつつ、30分ほど車を走らせれば目的地へと到着した。
「はい、これ入館証です。荷物は一旦車に置いておいて大丈夫なので、このまま現場入っちゃいますね」
「わかりました」
古賀の後をついて行き、明智とともに現場へと足を踏み入れる。
同じ案件対応での出張とはいえ、明智とは別チームで作業も分かれるため、途中で離れることになった。
「じゃあ明智さん、また定時後よろしくお願いします」
「ああ。頑張れよ」
「はい、明智さんも」
軽く言葉を交わし、伊丹は今日も頑張るぞと改めて気合を入れた。
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