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出張先での作業もトラブルはありつつも割と順調進んでいる。
他のブースで作業している明智も忙しなく動いているようだが、持ち前のカリスマ性からか色んな人に話しかけられてかなり頼りにされてる様子が窺えた。
明智はふと時計に目をやり、刻一刻と迫る定時に伊丹とのイチャラブタイムが近づいていることを認識し、動悸が激しくなる。
「明智さん明智さん」
「え、ああはい。どうしました」
「今日このままいけば定時で上がれそうだし、どうです?このあと一杯いきません?」
「....いえ!今日は大事な予定があるので!」
「え...ああそうなんですか。それは残念。」
声を掛けて来た作業員に食い気味に答えれば、若干引き気味に受け答えされ、やってしまったとすぐに顔を引き締める。
柄にもなく今日一大きな声を出してしまったと反省しつつ、伊丹も定時で終わると良いなと思いを馳せた。
「明智さん」
「ん?...あ、い、い、伊丹っ、!」
「はは、どうも伊丹です。作業どうですか?俺定時で上がれそうなんですけど」
早く仕事を終わらせるぞと意気込んで作業に集中していれば、明智の様子を窺いに来たらしい伊丹に声を掛けられ、驚きのあまり素っ頓狂な声を出してしまう。
それを伊丹に笑われ内心羞恥に震えるが、平静を装い口を開いた。
「...俺もおそらく定時に上がれる。終わったらとりあえず声掛けろ、俺も一緒に上がるから」
「はい、わかりました。ではまた後で」
「ああ」
今日も伊丹が破滅的に愛おしい。
そんなことを考えながら、明智は目の前の作業に集中した。
•••••••••
「伊丹くん、とりあえず今日のノルマ終わったし定時で上がって大丈夫ですよ」
「あ、はい。わかりました」
「明智さんところも順調みたいなのでこのままお二人ホテルに車でお送りしようと思うんですがどうですか?」
「え、いいんですか。ありがとうございます、助かります」
定時近くに古賀にそう声を掛けられ、伊丹は定時のチャイムとともに明智の元へと足を運んだ。
「明智さん、古賀さん車出してくれるらしいです」
「あ?まじか、すげぇ助かる。したら俺ももう上がるって言ってくるわ」
「わかりました、俺先に古賀さんとエントランス行っときますね」
「おう」
伊丹には至極自然に接してはみるが、心臓はばくばくと音を立て、俺はこのまま死ぬんじゃないだろうかと若干の不安に苛まれる。
急いで周囲の人間に声を掛けてエントランスへと向かえば、伊丹と古賀は穏やかに談笑しており、足早にそこへ駆け寄った。
「あ、明智さんお疲れ様」
「すみません、お待たせしました」
「よし、じゃあホテル行きましょうか」
二人で古賀の車に乗り込み、そのまま今日宿泊するホテルを目指す。
ホテルではもう二人きりだ、なんて幸せなんだろうか。
明智はいつもの如く脳内で繰り出されるソーラン節を聞き流しつつ、隣で相変わらず楽しそうに話している伊丹に視線を向けた。
「え、じゃあ伊丹くん昨日までホテル決まってなかったの?」
「そうなんですよ、明智さんいなかったら本当にまずかったです」
「ほんと前田さんは相変わらずだなあ...。今日のトラブルもスムーズに対応してくれたし、僕たちは伊丹くん来てくれて良かったけど、ほんと色々大変だったね」
「はは、まあいつものことなので。それに僕今回の出張はいつもより楽しみだったんです」
伊丹はそう言うと明智の方を見てにこりと笑うので、その仕草に思わずどきりとする。
「え、なんで?」
「同期の明智さんと一緒だったので。」
「あ、二人とも同期なんだ。明智さん落ち着いてるからあんま同期感ないですよね」
「確かに、それは俺もいつも思います。明智さん仕事できすぎなんですよ」
「...別に普通だろ」
「ちょ、それだと俺の立場無くなっちゃうんで謙遜しないでください」
和やかにそんなやりとりをしつつ、10分も車を走らせればホテルへと到着する。
「荷物忘れ物ないですよね?」
「はい、確認したんで大丈夫です。ほんとにありがとうございました」
「いいのいいの。明日の朝は二人ともバスで来ます?なんなら僕迎え来ますけど」
「いや、流石にそこまでしていただくわけには。バスで行くので大丈夫ですよ」
「あはは、そっか。じゃあ明日もまたよろしくお願いします!」
それでは僕はこれで、と去っていく古賀を見送り、明智は地面に置いていた荷物を抱え直した。
「チェックインしてくるからその辺座って待ってろ」
「ありがとうございます。あ、明智さんの荷物預かっちゃいますね」
「...ああ、頼む」
こういう些細な気遣いができるところが本当に好きだ。好きが強まる。
背を向ける伊丹にそんなことを思いながら、明智はチェックインを済ませるために受付へと向かった。
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