1.桜の下の、まだ見ぬ光

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1.桜の下の、まだ見ぬ光

 窮屈(きゅうくつ)な制服に袖を通した日、僕は晴れて中学生になった。  入学式には知っている顔も、知らない顔もいる。別の小学校からやってくる子たちは、ほとんどが初対面だ。  まわりの女子がスマホで自撮りをしあうなか、僕は冷めた心地で桜の木を眺めていた。  まるで人生という小説が次の章へ進んだような。エスカレーターが次の階へ登ったような。そんな程度の感情だった。  どうして制服を着たくらいで、ここまで舞い上がれるのだろう。  やっていることは今までと大して変わらないというのに。  毎日、学校へいって、授業を受け、部活にいって帰る。その繰り返し。小学校から変わらないし、きっと高校へ行っても、大学に行っても変わらない。会社に入ったって同じかもしれない。  父は入学式にはこないというので、僕は桜を見上げながら、ただぼんやりとクラスへの移動が始まるのを待っていた。  スマホのシャッター音と、親や生徒が話し合う声が響く。
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