23人が本棚に入れています
本棚に追加
1.桜の下の、まだ見ぬ光
窮屈(きゅうくつ)な制服に袖を通した日、僕は晴れて中学生になった。
入学式には知っている顔も、知らない顔もいる。別の小学校からやってくる子たちは、ほとんどが初対面だ。
まわりの女子がスマホで自撮りをしあうなか、僕は冷めた心地で桜の木を眺めていた。
まるで人生という小説が次の章へ進んだような。エスカレーターが次の階へ登ったような。そんな程度の感情だった。
どうして制服を着たくらいで、ここまで舞い上がれるのだろう。
やっていることは今までと大して変わらないというのに。
毎日、学校へいって、授業を受け、部活にいって帰る。その繰り返し。小学校から変わらないし、きっと高校へ行っても、大学に行っても変わらない。会社に入ったって同じかもしれない。
父は入学式にはこないというので、僕は桜を見上げながら、ただぼんやりとクラスへの移動が始まるのを待っていた。
スマホのシャッター音と、親や生徒が話し合う声が響く。
最初のコメントを投稿しよう!