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みぃー(3)
「どんなねこだった?」
あそびねこが来た次の日、長尾さんに話しかけられてしまった。
本物のねこでなかったなんて言いたくなくて、ねこのことは聞かれたくなかった。だからボクは、だれとも目を合わさないようにしてみたのだけど、自分の席についたとたんに長尾さんがボクの机にほおづえをつきながらのぞきこんできた。
教室からはなれよう。そう考えて顔を上げてみると、すでに他の女子や男子が集まっている。逃げられなさそうだ。
本当のことを言うしかないかな……。
「実はさ、でかいねこが来たんだよ。高士の言ってたごはんねこみたいのがさ。しかも、ごはんねこじゃなくて、あそびねこだったんだよ」
変に高くてかすれた声になってしまった。おもしろおかしく言うつもりだったのに、失敗した。手はあそびねこの大きさをぐるぐるとえがいていて、汗がおでこににじんでくる。
「うそつき」
長尾さんが放った。言葉がボクの胸にぐさりとささった。
高士がうそつきよばわりされた昨日のことがよみがえる。高士もこんな悲しい気持ちだったのだろうか。本当のことなのに信じてもらえなくて、うそだとされるなんて、つらいよ。
「今ならまだ間に合う。うそをついてごめんて、あやまれよ」
男子が優しくさとしてくるけど、大きなお世話だ。ボクはあやまるもんか。ボクはうそなんかついてないし、うそつきじゃないんだ。
「あそびねこはいるんだ!」
なんだか目からじわりとこぼれてきた。
長尾さんのするどい視線がこわいからなのか、優しい男子がさしのべた手をはらいのけてしまったからのか、くやしいからなのかわからないけど、ナミダがでてくる。
「意地をはるのもいいかげんに――」
「オレは信じるぞ」
長尾さんがボクを追いつめるように一歩ふみだしたとき、高士がはいってきた。
「――高士!」
昨日まではふてぶてしい存在でしかなかったのに、ボクの中ではヒーロー登場。ナミダがひっこんだ。
「うそじゃない。オレくらいでかいねこ、ごはんねこがうちには来た」
「そのショウコは? それに、直枝くんはあそびねこって言ってたけど?」
昨日より仲間が多いからか、長尾さんは強気にでて、高士をにらみあげた。周りの仲間たちが「そうだぞ」とか「うそつきはどろぼうだ」とかつぎつぎにはやしたてている。
ボクは高士とふたり、ハブになったんだとわかった。みんなからきらわれて、集団からはぶかれるぼっちのことを指すハブ。ボクはそうなりたくなかった。ここの田舎では小学校を卒業しても中学も同じメンバー。小学校でのけものになったら中学までずっとひとり……っていうのはたえられない。
再びわきでてくるナミダをぬぐって高士を見あげると、高士は力強さを放ったままただずんでいる。あらしの中でもどっしり構えている木みたいだ。
「ショウコ? 会えばわかる」
まぶしい朝日が高士の目鼻のかげをこくしている。
モアイ像よりもはくりょくがある顔に、ボクはぞくっとした。高士をじっと見つめていた長尾さんは、目をそらして仲間へと向けた。こわさを感じたのはボクだけではなかったようだ。
「あんたたちと話してる時間がムダだわ」
長尾さんはボクらを見ることなく笑うと、仲間たちとはしゃぎながらボクらからはなれていった。
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