にぁん(1)

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にぁん(1)

 ボクはねこがすき。うちでねこをかうのはダメだから、竹やぶにすみついているねこに、こっそりごはんをあげたり、なでたりしている。のらねこの世話も本当はダメだけど、秘密にしている。 「いつも遊んであげられないから、ねこを呼んだからね」  ある日の朝、お母さんはボクが学校に行く前にうれしいことを言った。 「よかったな」と、お父さんはボクの頭をくしゃりとなでて、仕事へと先にでかけていった。 「かうことにしたの?」  ボクはうきうきしてお母さんに聞きかえす。 「買ったんじゃないわ。(さとる)が帰るころには来るからね。お母さんは今日もパートで夕方に帰るから、ねこのことよろしくね」  いってらっしゃい、と外にだされた。  ねこを育てるを聞きたかったのに、買ったのでもなく、来るとか変なことを言われた。  よくわからないけど、ねこは来る。やったぁとおもった。 「今日はねこが来るんだ」  ボクは学校で言いふらした。  いいなとか、よかったねとか、みせてとか、話のわが広がって、女子までよってきて楽しい。 「それ、ごはんねこだろ?」  ねこの話でもりあがっていたら、クラスで一番大きい男子、高士(たかし)がわりこんできた。 「え、なにそれ?」  じわりと高士から遠ざかる。でかい高士はぶきみで、からみづらい。それに最近は、高士をのけものにするムードが広がっていた。だれかが「横暴な巨人に勝つ」なんて、ふざけて言いだしたのが始まりだっただろうか。 「ごはんをつくる、オレくらいでかくて、白くてつるんとしたねこだよ。かあちゃんが呼んでうちに来たぞ」 「ち――」  ちがう、と言えなかった。 『買ったんじゃないわ。悟が帰るころには来るからね』と、お母さんの変な言葉がよみがえる。 「そんなのいるわけない」  ねこずき女子の長尾(ながお)さんがボクのかわりに高士にせまった。 「は? オレがうそついているって、言いたいのか。うそをついてるショウコあるのかよ」  高士がせまりかえす。  ごつい高士は上からにらむと、世界七不思議のモアイ像みたいにこわい。長尾さんはたえられずに逃げだした。 「ごはんねこを使うときは、ちゃんと考えてからボタンをおせよ」  高士はボクのかたをポンとたたいて、外遊びにいくのか教室をでていった。  ボクは「ボタンがあるの?」という言葉をのみこんだ。ごはんねこなどという、高士みたいにでかい物体が来るなんて信じたくない。  ねこは来る。きっとかわいいねこがうちには来るんだ。  本物のねこを早く確認したくて、学校が終わるとボクは家へとダッシュした。
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