悪魔のように美麗な執事に恋に堕ちてしまった私は、悪役令嬢となって婚約者をヒロインに差し出すことにいたしました

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 まだ夢の中を漂っている私を現実へと(いざな)う声が、耳元で囁かれました。 「ビアンカお嬢様、おはようございます」  彼の甘さを含んだ低音が鼓膜を震わせ、腰に重く響きます。  あな、たは……  まだ微睡みから抜けきれずにいると、再び声が落とされました。 「お目覚めの紅茶をご所望ですか?  それとも……お目覚めの、口付けを?」  頬を撫でられ、肌がさざめきます。    瞳を開くと、目の前には現実とは思えないほどに美しく麗しい容姿をした男性が、不敵な笑みを浮かべて私を見つめています。  彼の名は、リチャード……私専属の、執事です。  濡羽色の艶やかな髪、深い闇のような漆黒の瞳、色素の薄い肌と唇、二段階に嶺のある高い鼻……その人造的な美しさは悪魔かとも思えるほどです。  16歳を迎えると、ウィンランド家では専属の執事を持つことになっております。  二ヶ月前、誕生日パーティーで現れた突如として現れた彼は……予定していた執事とは違う方でした。 『執事協会から、決まっていた方がご病気になられたとのことで、私が代わりにビアンカ様の執事を務めさせていただくことになりました』  そう告げるとリチャードは私の前に跪き、恭しく手を取り、手の甲にそっと口付けました。  その途端、今まで感じたことのない衝撃が走り、胸の高まりが一気に押し寄せ、戸惑いを覚えます。  今、のは……なんなのかしら。 『ビアンカお嬢様、どうぞよろしくお願いいたします』  気がつけば、私は真っ赤になって膝を震わせていました。  私の両親は、若く魅力的な彼を執事につけることに難色を示しました。当初予定していたのは、70過ぎの老齢の男性でしたから。  ですが、リチャードはいざという時のためのボディーガードとしての役割をこなし、私の婚約者であるアンソニー様以外の男性を決して近づけないという誓いをたて、私の執事として認めていただけることになりました。  その日から、私はおかしくなってしまったのです。  リチャードを見つめていると胸が高鳴り、彼の声を聞くだけでそわそわし、指先が触れるだけでも顔が熱を持ってしまいます。
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