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思い悩みながら教室に入りますと、
「ビアンカ、おはよう」
アンソニー様に声をかけられ、思わずのけぞってしまいました。
「ご、ご機嫌よう……アンソニー様」
「どうかしたんだい? そんな、驚いた顔をして」
「な、なんでもございませんわ!!」
フォード子爵の嫡男であるアンソニー様は、私が6歳のときに親同士が決めた許嫁です。成人したらアンソニー様の元へと嫁ぎ、子爵夫人となるのだと、幼い頃から言い聞かせられてきました。
茶色い癖っ毛、弱気そうな下がり眉、丸いつぶらなキャラメル色の瞳、少し上にツンと向いた鼻、そばかすだらけの肌のアンソニー様は、少し幼いところはあるものの、明るくて前向きで社交的で、私は彼のことを快く、そして大切に思っております。いつか妻となって、彼の子供を産む未来に、疑問を抱いたことなどありませんでした。
アンソニー様とは清い交際をしており、口付けどころか手を繋いだことすらありません。
それですのに……私は。
アンソニー様を裏切っているという罪悪感が、私の心臓をきつく締め付けます。
私は、最低な人間ですわ……
「ビアンカ、もし体調が悪いなら医務室に連れて行こうか?」
アンソニー様の心遣いに胸が痛みます。
「大丈夫、ですわ……まもなく授業が始まりますわ。席に着きましょう?」
席に着きますと、先生が女生徒と共に入ってきました。
「本日よりこのクラスに入る、転入生です。どうぞ、自己紹介を」
「ハナです。どうぞよろしくお願いします」
ピンクの髪色に青い瞳、肩までの髪を揺らすハナ嬢は、見た目は少し変わっていますが、笑顔がとても可愛らしい女性でした。
アンソニー様の隣の席が空いていたため、ハナ嬢はそこに座ることになりました。
「やぁ、僕はアンソニーだ。よろしくね、ハナ」
「よろしくお願いします」
爽やかにふたりが微笑み合いました。
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