悪魔のように美麗な執事に恋に堕ちてしまった私は、悪役令嬢となって婚約者をヒロインに差し出すことにいたしました

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 アンソニー様が、ハナ嬢と……?  アンソニー様は婚約者であり、大切な方ではありますが、アンソニー様が他の女性に心惹かれたらと想像してみても、私にはこれといった感情は湧きませんでした。  こういう時……嫉妬したり、不安になったりするのが普通なのでしょうね。  アンソニー様に抱いているこの気持ちは、友人や家族に対するような思いであり、恋人や夫に対する恋愛感情ではないことを薄々感じてはいたものの、リチャードの言葉により、明確に自覚させられたのでした。  リチャードがフッと笑みを浮かべます。 「ではもし、私が……ビアンカお嬢様以外の女性と微笑み合っていたら、どう思われますか」 「そ、れは……」  考えただけで胸が痛み、苦しくなります。  リチャードが他の女性とだなんて、そんなの……耐えられません。  けれど、そんな感情を抑えて笑みを見せました。 「リチャードったら、何をおっしゃってるの。リチャードが他の女性と微笑み合っていたところで、私は……どうも、思いませんわ」  バックミラー越しにリチャードと目線が交わります。それは僅か一瞬であったにも関わらず、きつく縫い止められてしまったかのように感じました。彼の瞳が私の瞳の奥の心まで見透かしているようで、胸がドキドキします。 「それは……残念ですね」  リチャードが視線を外して目を細め、口角を上げました。
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