50歳、冬

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数日後に二人は再び私達の元を訪れた。最初に会った時より意志の硬い表情をしていた。 「やっぱりあなた方に、私の看取りを頼みたい。私が最期に人らしく死ぬために」 それが宮沢さんの返事だった。 「本当にいいんですか? 後戻りはできません」 「はい、もう決めたことですから。これから先、どうやっても私達が結ばれることはありません。だから、今日だけ恋人で、夫婦で過ごしたいんです」 指定した最期の場所は、初めて二人で行った小さな映画館だった。 平日の映画館は人が少なく空席がいくつも空いていた。 私達は出入り口でチケットを買って中に入る。コマーシャルで見た最近公開されたばかりのラブストーリー映画だった。どうもこういうものは苦手で、私くらいのおばさんが観ることは躊躇ってしまう。しかし依頼主の希望であるから仕方がない。 「映画が終わるまで僕達は何もしません。それまで二人の時間を大切に過ごしてください」 「ありがとうございます」 私と晴司は最後列に座り、最前列に座る二人の様子を見守った。映画館は小さく狭いため、二人の後ろ姿がよく確認できる。二人はまだ触れ合っていない。寄りかかったり、抱きしめ合ったりすれば、心臓が止まり始める。私は映画が始まってもスクリーンに目をやらず二人をじっと見た。 「そこまで力むことはない」 右隣に座る晴司は前のめりになっている私に声をかけた。彼は顔をあげて映画を観ていた。 「映画の途中で停止してしまったらと思 うと心配で・・・」 「彼らはエンドロールが流れるまで大丈夫だ」 「どうしてそう言い切れるの?」 「ぎりぎりまで待ってあげてほしいと昔言ったのはお前だ。だから俺は信じる。まさに教訓だな」 懐かしい言葉が過る。私が昔、母子を救いたいために、晴司に言ったもの。覚えていてくれていたのだ。私は自分の言葉に責任を持って、彼らから目を話して映画に集中することにした。
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