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浩一が小学校を卒業した三日後、焼却炉の中でおじいさんの焼死体が見つかった。同時に、おじいさんの伴侶であった女性の骨も発見されることになった。
女性は何年も前にあの焼却炉で焼かれて、骨は焼却炉の側の木の下に埋められていた。それを死ぬ間際におじいさんが掘り返したらしい。おじいさんは女性の頭蓋骨を大事そうに抱えたままこの世を去ったのだと、浩一は朝のニュースで知った。おじいさんと女性の間に何があったのかは、ニュースでは語られていない。焼却炉が全てを燃やして、蒼穹に昇らせてしまったからである。
このような事件は、何日かすればすぐに風化して、何ケ月か経てばほとんどの人の記憶から抹消されていくことだろう。僕は違う、と浩一は思った。あの焼却炉で、全ては心に刻まれているから。焼却された悪い点のテスト用紙と、卒業証書と、おじいさん。浩一の心からは決して忘却されることはないだろう。
事件後も焼却炉の側を離れたがらなかった次郎は、人を近づけず、誰が餌をやっても頑として食べようとはしなかったが、浩一があげると素直に食べた。浩一は親に無理を言って、浩一の家で引き取ることになった。
浩一が次郎の首輪のカプセルに気付いたのはすぐのことであった。卒業証書を焼いた日にもなかったものだと記憶していたからである。中に入っていたのは小さな紙切れ一枚であった。紙には、おじいさんのものなのか、はたまた女性のものなのかは定かではないが、震えたような拙い筆跡でこう書かれていた。
やいて
うめて
ください
いままで
ありがとう
浩一はその紙切れを十分に眺めた後、丸めて口に放り込んで、空を見上げ、そのまま飲み込んだ。そうしてこう呟いた。
「さようなら……ありがとう……」
そしてこの春、浩一は中学生になった。
◆◆◆ 完結 ◆◆◆
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