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「凛子ちゃん、今日用事ある?」
「いえ、別に」
「じゃあ、ちょっとお出かけしようか」
「……どうしたんですか、本当に」
わたしはびっくりしていた。もう何が何だか分からなかった。数日前まで、わたしとあなたはしゃべるどころか目も合わせたこともないような仲だったのに。それがいきなり家まで押しかけてデートのお誘いだなんて、一体どうしちゃったの。
「ここにずっといると、凛子ちゃんから離れられなくなりそう」
「わたしのうなじからでしょう」
まぁ、そうだけど。あなたは予想どおりの返事をした。
「まぁ確かに、1日中歯型をつけられるのは困ります」
「じゃあちょっとドライブしようか」
「えっ、助手席、乗せてくれるのですか」
「いいよ」
「うわぁぁぁ」
わたしはトランポリンの上を跳ねるように、勢いよく立ち上がった。今度はあなたが驚く番だった。
「そんなに嬉しい?」
「そりゃもう」
「じゃあ行くよ」
「あっ、ちょっと待って。着替えます」
「いいって」
よくない。小豆色のジャージはさすがによくない。
「髪の毛セットする」
「はいはい」
わたしは慌ただしく部屋に戻り、こういう時のために取っておいたお気に入りのワンピースに着替え、洗面所に行き水玉のシュシュで髪を一つにくくった。本当はもっと着飾りたかったのだけれど、これ以上あなたを待たせるわけにはいかない。
慌てて居間に戻ったら、あなたの姿は消えていた。外から車のエンジンの音がする。もしやと思い玄関の扉を開けると、運転席に座るあなたが見えた。あら、煙草を吸っている。窓を開けて、助手席に乗るように合図をする。わたしはどきどきしながら車に乗り込んだ。
「お、お待たせしました」
「いえいえ。セーラー服とはやっぱりちがうね」
ジャージとも、と余計な一言をつけ足され、わたしは唇を尖らせた。
「デリカシーないですね」
「でも好きなんだろう」
そう言って得意げな顔をするあなたに、わたしは何も言えなくなる。
「あ、煙草吸ってもいい?」
「もう吸ってるでしょ」
「そうでした」
ふぅーっとあなたが白い息を吐く。
「さぁ行こうか、お姫様」
そんなキザな台詞から、わたしとあなたのドライブが始まったのである。
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