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「そう言えば、まだ某は名乗っていなかったな。失敬」
武士は一度咳ばらいをすると、改めて穂村に向き直った。
「某の名は、真田 信繁。信濃の上田を治めし真田 昌幸が子にして、今は太閤殿下の馬廻衆(つまり豊臣秀吉の側近)を務めている。改めて、よろしく頼む」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いいたします。って真田?」
(“真田 信繁”っていやぁ、あの真田幸村の本名じゃねぇか!マジか!え、モノホン?うぇええええええええええ?!)
驚きのあまり発狂しそうになって、慌てて口をつぐむ穂村。その様子を見て信繁は一瞬訝しんだものの、すぐに次の話題へと移った。
「見たところ、お主は大坂には慣れていない様子。そこで、だ。おい、槐はおるか」
信繁がそう呼ぶと、どこからともなく一人の少女が現れた。年は14歳くらいだろうか。まだあどけなさの残る、愛らしい顔をしている。尾が短いポニーテールのような髪型に、腕の袖と足首を絞って動きやすくした、巫女さんのような服装をしていて、中々にインパクトのある見た目をしていた。
「どうされましたー、信繁様」
「槐、こやつは綱田 穂村。今日から某に仕えることとなった者だ。お主には、こ奴の面倒を見てやってほしい」
「え~あたしがですか~」
槐と呼ばれた少女はこちらを一睨みすると、吐き捨てるように言った。
「信繁様、こ奴怪しいです殺しましょう」
「いやいやちょっと待って殺さないで?!」
いきなり物騒なことを口走る少女に、穂村も慌ててツッこむ。
「まぁまぁ、そう言うな槐。こ奴はいずれ、某が作る弓・鉄砲混合隊に必要な人材。ここは某に免じて、どうかこ奴の世話をしてやってくれ」
「はぁ、信繁様がそこまで仰るなら……」
少女は大きく溜め息をつくと、嫌々ながらも穂村が信繁に仕えることを承諾してくれた。
「あたしの名は槐。信繁様の忍にして一番の家臣よ。ホントはどこの馬の骨ともしれない奴を臣下にするなんてぜぇ~たい嫌だけど、信繁様の命令だから、一応面倒見てあげるわ。けど、もし次アンタが変な行動を起こしたらその時は…………殺すわよ」
穂村の喉元にクナイを突き付け、刺すような視線でこちらを射ぬく槐。あまりの恐ろしさに、穂村もこう答えるしかなかった。
「……はい」
かくして、穂村は後に“日ノ本一の兵”と称されるようになる武将、真田 信繁に仕えることとなったのである。
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