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使用する弓の調子を確かめつつ、穂村は射る場所から的までの距離をおおよそ予測してみた。
(うーん。立ってみた感じ、三十メートルくらいかな。弓道で一般的な距離は二八メートルだから、それより少し遠いくらいか。的は直径三十センチくらい?ま、決して当てられないものじゃないな)
「兄ちゃん、準備はいいかい?」
客寄せの質問に、穂村は静かに頷く。
「いよぅし!それじゃあいってみよー!」
開始の合図である太鼓が叩かれ、穂村は弓を構えた。大勢の見物人の視線は気にも留めず、ゆっくりと呼吸をしながら、矢をつがえた手を後ろに引く。真っ直ぐに的を見据えながら、矢を放つタイミングを計る。
その緊張を感じ取ったのだろうか。つい先ほどまで騒がしかった見物人たちも、固唾をのんで見守っている。やがて風も止み、辺りは完全な静寂に包まれた。
(今だ!)
瞳孔をカッ!と開き、穂村は矢を放った。矢は直線上を外れることなく進み、的のど真ん中に吸い込まれるように、深々と突き刺さった。
「よしっ!」
穂村がガッツポーズをとると同時に、見物人が一斉に歓声を上げた。客寄せの男も感心したように、拍手を送っている。
「すげぇなあんた!一発で命中させちまうとはよぉ!」
「どこかのお武家さんが挑戦した時には、全く当たらなかったんだよ?それを簡単に当てちまうなんてさぁ、大したもんだ!」
「いやぁ~それほどでも、ありますかね?ナハ、ナハハハハハハハッ!」
大勢の見物人に褒められ、ノリにノッている穂村。その様子を離れた所から見ていたとある男は、僅かに口元を緩めた。
「あ奴、使えるかもしれん……」
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