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「何でうちに入れたんだよ。」
「ん? 鍵で?」
目の前には、弟が作ってくれた夕飯がある。とりあえず、ご飯でも食べながら話をしようと言われ、流されるように夕食タイムだ。ビーフシチュー…。しっかり煮込んだ奴。何時間前からうちにいたんだ?
「鍵で……とか、手段を聞いたんじゃねぇ。ふざけんな。」
「ごめんごめん。母さんにスペアキー、借りてきた。」
確かに一本預けてたな。
「で?」
「ん?」
俺はじっと弟を見る。ん?じゃねーよ。ん?じゃ!
俺がムッとした顔で、じっと見つめたまま動かないのを見て、弟は軽くため息をついた。
「カミングアウトしたら、父さん、怒り心頭でさ。とりあえず、緊急避難のために、兄ちゃんところにでも行けって、母さんが。」
「カミングアウト?」
「これ。」
弟は、自分を指さす。
「女の子の姿でいるのが、しっくりくるんだよね。あたし。」
「はあ。」
弟はもともと男にしては華奢で中性的な顔立ちだった。小さい頃はよく女の子に間違われたし、中学高校時代には、かわいい系のイケメンだと女の子達にモテてたと聞く。弟とは4つ離れてるから、あまりモテてる場面を直で見たことはないけど。
「いつから?」
「んー。小さいときからスカートへの憧れはあったかなー。服も女の子の服が気になっちゃってたし。高校時代に一時期付き合ってた彼女がさー、メイク好きな子で、あたしにメイクしてみたいって言うからしてもらったら、すんごいしっくり来たっていうか。」
「へぇー。」
「あんま、驚かないね。」
「いや、それなりに驚いてる。」
そりゃ、それなりに驚くわ。
しかも目の前にいる弟は、どう見ても女の子だし。
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