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「……気持ち悪いとか、思わないの?」
弟が、伏し目がちにポツンと洩らす。
「とは思わないけど。驚きはしたけど、別にそれはそれでいいんじゃない?」
弟は大きく目を見開く。目にはみるみる水が……。
「泣くな!女の子泣かせたみたいにしか見えねーから、泣くな!」
焦ってそんなことを言った俺を見て、弟は小さく吹き出した。
「ホッとした。兄ちゃんも、父さんみたいな反応するのかなって、ちょっと心配だったんだ。」
「父さん……どんなだった?」
「この姿で現れただけで、もうアウト。何も話も聞かず、出てけって怒鳴られて終了。」
弟は薄く笑った。
だろうな。父さんはよく言えば真面目、まぁ平たく言えば、頭が堅い人だからな。受け入れられる訳がない。
「恥さらしってさ。やっぱ、そうなのかな。」
弟がフォークで肉を刺し、食べるわけでもなくシチューを絡ませ続ける。
凹んでんな。
そりゃそうか。
「カミングアウトしたってのはさ、ある程度覚悟決めたってことなんだろ? お前はお前なんだから、別にいいんじゃね?」
弟は、また目を見開いて俺を見る。
「そんなにあっさり受け入れてくれるなんて思わなかった。」
俺は残りのビーフシチューを茶碗の白米にかけて喰らった。弟がこんなに料理がうまいとは知らなかった。こんな風に、知らないことなんか他にもいろいろあるんだろう。……お互いに。
「母さんは何て?」
「驚いてはいたけど、拒否られてはないよ。ほとぼりが冷めるまで、兄ちゃんのところにでも行くといいわって鍵くれて。今朝、家を出るときには、かわいいわねって褒めて笑ってくれた。」
「らしいな。」
母さんは、いつだって俺たちの味方だったからな。
「というわけでさぁ。しばらく置いてもらえない?」
弟が上目遣いで見てくる。
その姿は女子にしか見えない。
「ま、いいけど。」
「ありがとー。」
ふんわり笑う弟は、女子の中にいても遜色ないだろう。何なら、女子の中でもかわいい部類だろう。
「ちなみにさ、お前の感覚としては、性別は女子なわけ?」
「ん? んー。そこがまたよくわからないんだよね。」
弟が苦笑する。
「どっちでもないっていうか。外見は女子にしてた方がしっくり来る。じゃあ、本当の性別は女なの?って正面から聞かれると、どうなのかなーって思う。」
「性別は超越してる感じか?」
「超越? 何それ 。いいかも。」
弟は明るく笑う。
「恋愛対象は?」
「それは女子なんだよね。かわいい女の子が好き。」
「そっか。」
俺は、夕飯を食べ終わり、食器をシンクに下げた。
「あ、俺、毎週末家には帰ってねーから、好きに過ごしてていいからな。日曜の夜には戻るけど。」
ちょうど明日は金曜だから、言っとかなきゃな。
弟は、わかったと笑った。
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