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エピローグ
秋の空、飛行機が弧を描き、地上に旋回する音が聞こえる。少し先には、関西地方のツアーが終わり、疲れて猫背気味に歩く彼の姿が見える。
「とりゃあああああーー!」
私は、その旋回音を味方につけ、叫びながら全力で走った。高く高くジャンプした先には、私よりも10センチ高い彼の背中が見えて、その細い背中にしがみついた。
「なにすんだよ!いきなり!」
迷惑そうにその手を振り払い、眉間にしわ寄せて睨みつける彼。
そんな冷たい視線も私は慣れっこだ。今にも怒り出しそうな彼に私は怯むことなく彼の胸ぐらを掴み、キスをした。
こんな無謀なやり方をしなくても、今までの私なら男はみんなイチコロだった。私は今や国民的歌姫と呼ばれ、誰からも愛され、モテてモテてしょうがない女のはずなのに、この彼だけは振り向いてくれない。彼は私のことを憎いと思うほどに嫌う。その理由を知りながらも、彼を恋い慕い続けて2年目。
――どんなに想われようと、お前が報われることは一生来ない。そんなの時間の無駄だろ?
――どんなこと言われたって、私は私の想いを貫く。たとえ、近い未来別れることが決まっていたとしても...
木枯らしの風が、私を前へ前へと押し出してくれる。勝ち目はないとわかっているのに、勢いに乗って、私は今日も何度目かの愛の告白をする―――。
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