第1話  『京都駅にて』

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第1話  『京都駅にて』

うちの母が 中学生のころの話です。 修学旅行で 京都へ行ったそうなんですね。 で、 京都駅でクラスメートと 電車を待っていたら、 不意にホームが 「キャーキャー」 って色めきだったそうなんです。 なんだろう、 と思って見てみると 俳優の 里見浩太朗さん がいたそうです。 当然 今よりもずっと若かった 里見さんは ため息が出るほど イイ男だったそうなんですよ。 「カッコイイなぁ~」 と見惚れていたら 里見さん、 母の方を見て 近づいてきたそうです。 「え? え?   なんでこっちにくるの?」 とまどっていると 里見さんが 母の目の前に立って 「ねぇ、Yさん?  きみ、Yさんだよね?」 そうたずねてきたんです。 「そ、そうですけど…」 どうして自分の名前を知っているのかと 混乱しながら返事をすると、 「やっぱり、Yさんなんだ」 と笑う。 「ど、どうしてわたしの名前を  知ってるんですか?」 と聞こうと思った瞬間、 ホームにファンが殺到してしまい 里見さんはあわてて 電車に乗ってしまったそうなんですよ。 けっきょく、 天下の大俳優 里見浩太朗さんが どうして 母の名前を知っていたのか わからないまま 何十年もたっているそうです。 でも、 ちょっと信じられないでしょ。 だから 「ホントなの?」 と疑うと、 「ホントだよぉ。  今でも中学の同級生と  再会すると  あのときの話になるんだもんっ」 腕にたった鳥肌をさすりながら 自慢気に言うんですよね。 里見浩太朗さんが どうして母の名前を 知っていたのかという謎は このまま 解明されないまま終わるでしょうね。 だってお会いすることはないでしょうし 母にとっては一生の思い出でも、 里見さんは 覚えてもいないでしょうからね。 でも、 その話をする母の目は いつもキラキラ してるんですよ。
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