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そうだ。思い出した。
あの日、イルカショーの終盤で思いっきり水を掛けられて全身ずぶ濡れになったんだ。
前の方の席に座ると濡れますからね、という先生の話を、私は端っこでいじけていて聞いていなかったんだ。
周りの同じように水が掛かった子たちは、歓声を上げながら楽しそうに騒いでいたけど、私は失意のどん底だった。
クラゲの水槽が見られなくて半泣きだった私に、追い打ちをかけるように。
でも涙を溜めて立ち尽くしていたら、「大丈夫?」って真っ先に声を掛けてタオルを渡してくれたのはやっぱり和也くんだった。
困っているといつも彼が助けてくれる。
そのとき仲の良かった友達とうまくいかなくなって、両親も毎日喧嘩ばかりしていたあの頃の私の味方は、和也くんだけだった。
和也くんは私のヒーローだった。
それなのに、別れの日に彼は来なかった。
まさか最後に和也くんの顔が見られないなんて想像していなかったから、大きなショックを受けて、東京へ向かう車の中で声を上げながら泣きじゃくった。
あまりに泣き過ぎて、仕舞いには声が出なくなるほどに。
引っ越す私となんて、もう仲良くしたくないと思われてしまったのかもしれない。
クラゲの水槽を見上げていると、小学生の頃の自分と和也くんのことばかりが、心と頭を行ったり来たりしていた。
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