第5章 江ノ島 (4回目)

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 いや、もしかして、俺の素性に気付いたってことはないだろうか。  だがもし知っていたとしたら、こんな風に明るく笑っていられないはずだ。  それともサラの心に他の誰かがいるのか。  忘れられない元彼とか。  片思いの相手とか。  まぁ、俺だって人のことは言えない。  正体も、本心も、隠してるんだから。  まさか「君じゃない君の存在を知ってる」だなんて、どんな顔をして言えばいいんだ。   普段から自分の意見は包み隠さずストレートに伝える方だけど、元々本心を人にさらけ出すことはあまり好きじゃない。  誰かに胸の内を知られることが、単純に嫌だからだ。  若い頃は多くの人に認められたいとか、自分の存在を大きく見せたいとか、そんな浅はかな思いだけで、あえて隠してたような所もあったと思うけれど。  その頃は大人になるってことが、そういうもんだと勘違いしてた。  でも今もう、そうじゃないってことが分かる歳になったが、長年続けてきた行動は身体の一部として染み付いて簡単には離れない。
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