第5章 江ノ島 (4回目)

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 本心も自然にさらけ出せてしまう人が、俺は本気で羨ましかった。  喜怒哀楽の感情を素直に伝えても、誰からも愛されるなんて。  たとえ誰かの真似をしたとしても、同じようにいかない事もよく分かってる。  結局そういうもんは、持って生まれたものなのかもしれないし。   自分の本心や弱さを人に見せることが怖かったのは、あの小4の春も同じだった。  全てを隠してサラと自分から逃げ出した。  あの日から後悔は続いている。  だから同じ事を繰り返さないためにも、目の前にいるサラにだけは、俺の全てを正直に見せるべきなのかもしれない。  どんなに罵られても、失望されても。   もう「今」の瞬間は二度と来ない。  だから「今」の思いを伝えなければ、瞬く間にポロポロと風化を始め、この手から零れ落ちて行ってしまう。  どんなに強い思いでも脆く崩れて、みるみる小さくなって消えていく。そして思いの残像がいつまでも自分を苦しめ続けるのだ。
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