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水族館の駐車場で、突然カズヤに強い力で手を掴まれた。
さっきまで笑い合っていた彼とはあまりに違う真剣な表情に、気が動転して視線を逸らせずに立ち尽くしていた。
悲痛な面持ちで、苦しい心の叫びのような言葉を投げかけてきたカズヤに対して、どんな言葉を返せばいいのだろう。
頭に浮かぶ言葉は口にする前に、次々とかき消されていった。
本来言われたら嬉しいはずの言葉に、なぜかとても困惑していた。
まだ知り合って間もないカズヤに惹かれる気持ちはもちろんあるし、一緒に過ごす時間は居心地が良い。
でも、彼の知らない部分もそれ以上に多くて、私のことも同じように知らないことばかりのはずなのに。
なぜ、こんなに急ぐのだろう。
何かに追い立てられて焦るみたいに。
今まで見たことのないカズヤの心の弱みを初めて見た気がした。
こんなに一生懸命に私と向き合おうとしてくれているなんて。
心は強く彼の方へ引っ張られているけれど、だからこそ彼のペースに私の心がついていけるかが不安だった。
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