第1章 誕生日 (1回目)

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 BGMがほろ酔いの耳に心地よく届く。  音楽とお酒がこんなに合うだなんて、今まで知らなかった。  ジャズ音楽に詳しくはないし、これまでじっくりと耳を傾ける機会もなかったけれど、傷付いた心を癒してくれるみたいに優しい。  とっても、贅沢な時間――。  音楽を心で聴くって、こんな感じだろうか。  悲しい気分を紛らわし、ストレスを緩和してくれるような。  これも新たな経験の一つかもしれない。  二杯目のワインを頼もうと、手をあげた瞬間、私の耳に次の曲が聴こえてくる。  その懐かしさに、思わず笑みがこぼれた。  幼い頃から大好きな映画「ローマの休日」のテーマ曲。この曲を耳にすると、この映画の大好きな場面が鮮明に甦る。セリフも覚えてしまうくらい、何度も見返した映画だった。  アン王女みたいに、スペイン階段を散歩しながらアイスを食べたり、スクーターで颯爽と街を駆け抜けることに、ずっと憧れていた。  いつかあんな恋がしてみたいと、淡い憧れを抱いているような女の子だった。  主役のアン王女を演じたオードリー・ヘップバーンといえば、映画「ティファニーで朝食を」の曲「ムーンリバー 」も好き。  懐かしい思い出と、心動かす音楽に酔っているうちに、気が付けば、三杯目のワインに口を付けようとしていた。  かなり酔いが回っている自覚はある。  こんなに飲んだのは久しぶりかも。  まぁ、たまにはいいか。 「ふふふふん♪」  上機嫌に鼻歌なんか歌っちゃって。  酔いの回った心が多幸感で満たされる。  そのとき、どこからか視線を感じた。  さりげなく周りを見回すと、カウンター奥にいる男性が、こちらをじっと見つめている。  ズキン。胸の奥の方で大きな音がした。  酔いが覚めてしまうくらいの強い衝撃。  普段の私だったなら、ものの数秒でその視線を逸らしただろう。見知らぬ男性の熱い視線に、耐えられるはずなんてない。  でも、そのとき感じた、互いの視線が甘く絡んで溶け合う感覚は、不思議と不快なものではなかった。
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