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BGMがほろ酔いの耳に心地よく届く。
音楽とお酒がこんなに合うだなんて、今まで知らなかった。
ジャズ音楽に詳しくはないし、これまでじっくりと耳を傾ける機会もなかったけれど、傷付いた心を癒してくれるみたいに優しい。
とっても、贅沢な時間――。
音楽を心で聴くって、こんな感じだろうか。
悲しい気分を紛らわし、ストレスを緩和してくれるような。
これも新たな経験の一つかもしれない。
二杯目のワインを頼もうと、手をあげた瞬間、私の耳に次の曲が聴こえてくる。
その懐かしさに、思わず笑みがこぼれた。
幼い頃から大好きな映画「ローマの休日」のテーマ曲。この曲を耳にすると、この映画の大好きな場面が鮮明に甦る。セリフも覚えてしまうくらい、何度も見返した映画だった。
アン王女みたいに、スペイン階段を散歩しながらアイスを食べたり、スクーターで颯爽と街を駆け抜けることに、ずっと憧れていた。
いつかあんな恋がしてみたいと、淡い憧れを抱いているような女の子だった。
主役のアン王女を演じたオードリー・ヘップバーンといえば、映画「ティファニーで朝食を」の曲「ムーンリバー 」も好き。
懐かしい思い出と、心動かす音楽に酔っているうちに、気が付けば、三杯目のワインに口を付けようとしていた。
かなり酔いが回っている自覚はある。
こんなに飲んだのは久しぶりかも。
まぁ、たまにはいいか。
「ふふふふん♪」
上機嫌に鼻歌なんか歌っちゃって。
酔いの回った心が多幸感で満たされる。
そのとき、どこからか視線を感じた。
さりげなく周りを見回すと、カウンター奥にいる男性が、こちらをじっと見つめている。
ズキン。胸の奥の方で大きな音がした。
酔いが覚めてしまうくらいの強い衝撃。
普段の私だったなら、ものの数秒でその視線を逸らしただろう。見知らぬ男性の熱い視線に、耐えられるはずなんてない。
でも、そのとき感じた、互いの視線が甘く絡んで溶け合う感覚は、不思議と不快なものではなかった。
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