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さっきまで聴こえていたエンジン音がしないことにようやく気付いて顔を上げると、いつものバーの前の景色が見えた。
「ごめん。また俺の気持ち押し付けて」
「うんん。私こそ自分のことばっかり」
俯いたまま雫が垂れるように呟く。
カズヤのそばにいるのに他の人を考えてしまう私に、カズヤを好きになる権利なんてない。そんなの身勝手すぎる。
「もしかして、他に好きな人がいるの」
その言葉にハッとして息を呑む。
心の隅から隅までを見透かされたようで、身体を強ばらせる。
じっと私の返事を待ち構えているカズヤは、まるで胸をぐしゃっと鷲掴みされたような苦悶の表情を作っていた。
そう言えば、以前にもこんな苦しい顔を見たことがある。
私じゃない、他の女性を思っているのではないかと感じていた、あの時の顔。
それと同じ眼差しが私に向けられている。
なぜそんな目で見つめるの。
やっぱり伝えなきゃ。
この気持ちを隠したまま、カズヤのそばにいるわけにはいかない。
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