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「今月、もう一度だけ会えないかな。サラの顔を少しだけでも見たいから」
カズヤが耳元で囁く。
たしか今月の18日と19日の土日はお休みだった。久しぶりに取れた連休。
今までみたいに曖昧な気持ちを持ったまま、彼に流されて会うのはやめよう。
ちゃんと決めて「彼に流される」のだ。
同じ流されるにしても大きな違い。
彼を信じて委ねるのだから。
「大丈夫。会いた⋯⋯」
言葉の途中で彼の顔が近付いて、長く、長く唇を重ねた。
変われない最低な自分も、辛い現実も、全て忘れてキスに浸った。
カズヤの唇を通して伝わってくる気持ちが優しくて温かくて。そして痛くて苦しかった。
世界中に私たちだけしかいないみたいに、お互いの唇を求め合った。
熱く、熱く――。
さっきよりも少し弱くなった窓ガラスを打つ雨の音が、静寂の中に響く。
雨が止む前に、この気持ちごと私を連れ去って欲しかった。
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