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ショーが終わりに差し掛かった頃、イルカが尾びれをうまく使って水を観客席にかけた。
イルカの意思でやっているんだと、調教師のお姉さんがマイクで説明している。
初めは笑って見ていたけれど、水をかけられた子たちの中にサラを見つけて俺はハッとした。サラは全身水浸しになったままで俯き、その場で立ち尽くしている。
もしかして、泣いてるのか――。
俺はとっさにタオルを手に取り、サラの元へと走った。自然と身体が動いたんだ。
――サラ、大丈夫? タオル使いなよ。
――ありがとう。和也くん。
全身びちょ濡れになったサラは、俺が渡したタオルで顔を隠した。誰にも泣き顔を見られたくなかったんだと思う。
帰りの予定時間になって水族館の外に出ると、うっすらと空が赤くなっていた。
バスに乗る頃には雨がポツポツと降り出して、すぐに土砂降りになった。
激しい雨の向こうにある隣のバスに、手で顔を隠すサラが見える。
まだ泣いているようだった。
学校に着く頃にはさっきまでの土砂降りが嘘のように止んで、バスの窓からは青空と虹が綺麗に見えた。
その景色を見ながら、サラの涙ももう乾いていたらいいなって思っていた。
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